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第8話

2.  二人はクラレンス・オークションハウスを出ると、大通りまで歩いて行き、ブラックキャブを拾って、ストラットフォードまで向かう。本来であれば地下鉄を使うのが早いのだが、二人共ストラットフォード近辺の地理には不慣れな為、キャブを使う方が良いだろう、となったのだ。  ロンドン中心部から30分ほどキャブに乗り、目的地の住所に着いた。周囲には小洒落た店舗の類いはなく、どちらかと言えば少し寂れた印象で、地元の人間が日常の買い物をするような商店が建ち並ぶエリアだった。 「こんなところにギャラリーなんて、絶対ないよな……」  キャブを降りて、リチャードが最初に言った言葉がこれだった。それを聞いてレイも同意する。  二人が探し当てた住所は、個人経営のニュースエージェントの二階だった。  建物の横にインターフォンがあり、どうやらフラットの中の一室が、該当住所のようだ。  リチャードがボタンを押すと、しばらくしてから「はい、誰?」と無愛想な声がする。 「警察の者ですが、話を伺いたいのでドアを開けていただけますか?」  リチャードが、インターフォンに向かってそう言うと、ガチャッと音がしてドアが開いた。二人が中に入ると、建物の中には据えた臭いが充満していて、レイは思わず顔を顰める。埃が積もった階段を上がり、ビジネスカードに書いてある番号のドアをノックすると、すぐに扉が開き、よれよれのTシャツにショーツというだらしない服装で、白髪交じりの黒髪、無精ひげをはやした中年男が顔を出した。 「警察? 何の用ですか?」  男はひどく訛りがあった。どうやらスコットランド出身らしい。 「贋作の件で、質問があって来たんですが」 「あんた達、クラレンスの回し者だろ? 何も話す事はないよ。あいつらが俺の足元見て、贋作売りつけてきたのは分かってるんだ。公にされたくなければ色付けて金返せ、って言ってるだけだろ? 世界的に有名な会社なんだ、それくらいの金出せるだろうが?」 「贋作かどうか、もう一度調べさせて頂きたいんですが」 「ふうん、それで本当に贋作だって分かったら、俺が払った金にプラスして、お詫びの金をくれるって訳?」 「それは……分かりません。クラレンスと相談して下さい。真作なのか贋作なのかが分からなければ、そこから先へ進めませんから」 「そんじゃ、まあ入ってよ。汚いけど我慢してくれよ」  デニス・モイヤーはドアを広く開けて、二人をフラットの部屋へ招き入れた。

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