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第15話
4.
リチャードは迷っていた。自分のオフィスのデスクの上に載せられた携帯電話。レイに連絡をすべきか、すべきでないか。何度も手にとっては、またデスクの上に載せる。
前日ショックな場面を見てしまったリチャードは、METのオフィスに戻ってから、一体どうやって仕事を終えて帰宅したのか、あまりはっきりと覚えていなかった。
何度かセーラから「顔色悪いけど、どこか具合でも悪いの?」と聞かれたのは覚えている。だが満足な答えをせずに、適当に誤魔化してしまった。きっと彼女は変だと思っていただろう。
自分のフラットに戻ってからも、目撃したあのシーンがずっと頭から離れなかった。あの男は誰なんだ? レイとはどんな関係なんだ? と考えれば考えるほど、胸が苦しくてたまらなくなる。
いつもであれば寝る前に、レイから一言メッセージが送られてくるのに、この日はそれすらなかった。
――まさか……あの男と……
考えたくもなかったが、最悪の状況を想像して落ち込む。
堂々巡りの答えが出ない考えをしているうちに、いつの間にか寝ていたらしい。次に目が覚めた時は、すでに起床時間になっていた。目覚まし時計を止め、シャワーを浴びていつものように出勤する。
オフィスに行くと、すでにセーラが来ていた。
「おはよう、リチャード。なんだか調子悪そうだけど、具合でも良くないの?」
「……セーラ、頼みがあるんだけど」
「何?」
「ストランドにある、ギャラリー・テイラーっていう店について、調べて欲しいんだ。まだオープンして間もないと思うんだけど……」
「今度の事件と関係があるの?」
「まだ分からない。あるかもしれないし、ないかもしれない。だけど、気になるんだ」
「……リチャード、どうしたの? 昨日からおかしいわよ?」
リチャードは、セーラの問いに答えることなく、俯くとデスクに戻る。そこへサーシャが出勤してきた。
「おはようございまーす」
そしてふとリチャードの方を見ると、心配そうに近寄ってくる。
「ジョーンズ警部補、どうかなさったんですか?」
「ああ、おはようブルック巡査。何か用かな?」
「あ、あのっ、今日ランチご一緒出来ませんか?」
サーシャは張り切って言う。リチャードは一瞬迷った顔をしたが、少し微笑んで「いいよ」と答える。
「えええ? 本当にいいんですか?! うわー、初めてですね、二人でデート……じゃなくって、ランチ行くなんて。嬉しいです。どこに行きます?」
「きみに任せるよ」
「分かりました。ランチタイムまでに決めておきますね」
サーシャはうきうきとした足取りで、自分のデスクへ戻った。
その様子を見て、セーラがリチャードに後ろからこっそりと声をかける。
「リチャード、どうしたの? いつもだったら、レイくんに気を遣って、絶対に二人でどこかに行ったりしないのに……」
「うん……いいんだ」
「……レイくんと何かあったの?」
「いや、別に」
リチャードは、それきり黙ってしまう。セーラも、それ以上は深く尋ねようとはしなかった。こういう態度の時のリチャードは、何を訊いても無駄だ、と長年の付き合いで分かっていたからだ。
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