17 / 82
第17話
「……リチャード、何か気になってるようなら、いつでも話聞くわよ?」
セーラは短くそれだけ告げると、自席へ戻った。
リチャードは、携帯電話をジャケットのポケットから取り出すと、着信履歴を調べる。レイからの連絡は入っていなかった。勿論メッセージも。
――レイ……何を俺に隠してるんだよ。
そう思うと、ぎゅっと胸が苦しくなる。
リチャードは立ち上がって、オフィスを出る。後ろ姿を心配そうにセーラが見ているのに気付いていたが、何も言わずにおいた。
廊下の端まで行くと、周囲を見回して誰もいないのを確認し、レイの携帯へ電話をかけた。いつもであればすぐに応答するのに、出る気配はない。虚しくコール音だけが響いている。
リチャードは少し考えた後、別の登録番号を押した。
「……これは珍しい方からの電話ですね。どうかしましたか?」
通話相手は、レイの年上の従兄弟ローリーだった。
「あの、今日ギャラリーにレイは来てますか?」
「あなたもレイを探してるんですか?」
思いがけないローリーの返答に、リチャードは言葉を失う。
「あの……どういうことですか?」
「今朝ちょこっと顔を出したっきり、どこかへ行っちゃって、携帯も全然出ないし、連絡取りたいのに取れなくて困ってるんですよ。電話に出ないのは、事件の捜査であなたと一緒だからなのかと思ってたんですけど、違ったんですね」
リチャードの脳裏に、ジュリアンが思い浮かぶ。
――まさか、あの男と一緒なのか?
「ジョーンズ警部補、もしもレイと連絡取れたら、僕のところに電話するように伝えてくれませんか? 急ぎの用なのに本当に困ってるんですよ」
「……分かりました」
リチャードはそう答えたものの、レイから彼へ連絡があるとは到底思えなかった。一体レイは、リチャードに何も言わずに一人で何をしているのか? それもこれも全部、きっとジュリアンが関係しているのに違いない、と今や疑念は確信に変わっていた。
オフィスに戻ると、リチャードは仕事に集中した。集中しなかったら、自分の心に湧き上がる嫉妬を、払い去れなかったからだ。
終業時間が近づいた頃、我慢しきれなくなったリチャードは、振り返ってセーラに話しかける。
「セーラ、今日パブ行ける?」
「いつお呼びがかかるのか、ずっと待ってたのよ?」
セーラはにっこり笑うと、そう答えた。
ともだちにシェアしよう!