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第17話

「……リチャード、何か気になってるようなら、いつでも話聞くわよ?」  セーラは短くそれだけ告げると、自席へ戻った。  リチャードは、携帯電話をジャケットのポケットから取り出すと、着信履歴を調べる。レイからの連絡は入っていなかった。勿論メッセージも。 ――レイ……何を俺に隠してるんだよ。  そう思うと、ぎゅっと胸が苦しくなる。  リチャードは立ち上がって、オフィスを出る。後ろ姿を心配そうにセーラが見ているのに気付いていたが、何も言わずにおいた。  廊下の端まで行くと、周囲を見回して誰もいないのを確認し、レイの携帯へ電話をかけた。いつもであればすぐに応答するのに、出る気配はない。虚しくコール音だけが響いている。  リチャードは少し考えた後、別の登録番号を押した。 「……これは珍しい方からの電話ですね。どうかしましたか?」  通話相手は、レイの年上の従兄弟ローリーだった。 「あの、今日ギャラリーにレイは来てますか?」 「あなたもレイを探してるんですか?」  思いがけないローリーの返答に、リチャードは言葉を失う。 「あの……どういうことですか?」 「今朝ちょこっと顔を出したっきり、どこかへ行っちゃって、携帯も全然出ないし、連絡取りたいのに取れなくて困ってるんですよ。電話に出ないのは、事件の捜査であなたと一緒だからなのかと思ってたんですけど、違ったんですね」  リチャードの脳裏に、ジュリアンが思い浮かぶ。 ――まさか、あの男と一緒なのか? 「ジョーンズ警部補、もしもレイと連絡取れたら、僕のところに電話するように伝えてくれませんか? 急ぎの用なのに本当に困ってるんですよ」 「……分かりました」  リチャードはそう答えたものの、レイから彼へ連絡があるとは到底思えなかった。一体レイは、リチャードに何も言わずに一人で何をしているのか? それもこれも全部、きっとジュリアンが関係しているのに違いない、と今や疑念は確信に変わっていた。  オフィスに戻ると、リチャードは仕事に集中した。集中しなかったら、自分の心に湧き上がる嫉妬を、払い去れなかったからだ。  終業時間が近づいた頃、我慢しきれなくなったリチャードは、振り返ってセーラに話しかける。 「セーラ、今日パブ行ける?」 「いつお呼びがかかるのか、ずっと待ってたのよ?」  セーラはにっこり笑うと、そう答えた。

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