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第19話

その時、テーブルに置かれていた彼女の携帯が振動する。メッセージを着信したようだった。中身を確認すると「リース、シフト終わったらしいけど、呼ぶ?」とリチャードに尋ねる。 「久しぶりだな……会いたい。警察学校時代はよく三人でパブで飲んだよな……」  リチャードは当時を思い出し、ふっと笑みを浮かべる。 「じゃ、呼ぶわよ」  そう言って、セーラは手短に返信を打ち込む。 「……セーラ、いつも聞こう聞こうと思いつつ、つい聞きそびれちゃうんだけど、どうして結婚指輪してないんだ?」  セーラはリチャードの質問を聞くと、今更何言ってるの? という表情をする。 「ちょっと、それ何年前から聞きたかった質問なの?」 「いやあ、聞いたらいけなかったかと思って。今ならアルコール飲んだ勢いで聞けそうだったから」 「私とリチャードの仲で、聞けない質問なんてないじゃないの。指輪ね、なくしたの」 「え?」 「もう随分前のことよ。夜、路上で犯人逮捕した時に落としたの。……その少し前から業務が多忙になって、結婚した当時よりも痩せたせいか、指輪がゆるくなってたのよ。ずっと気になってたんだけど、次のオフには店に持ち込んでサイズ直しを頼もうと思いつつそのままにしてたら、案の定落としちゃって。翌朝、落とした場所を散々探したんだけど、結局見つからなかったのよね」 「そうだったんだ……」 「リースも別にいいよ、新しいのを買おうか、って言ってくれたんだけど、私そそっかしいからまたなくしそうだし、指輪って安い買い物じゃないでしょう? 安月給の私たちには贅沢品だから。そんなお金あるなら、早く貯金して自分たちのフラット買いたいのよね。それに指輪してなくったって、結婚してるって事実は変わらないでしょ? だから別にいいかなと思って」 「リースはそれでもいいのか?」 「ええ、あの人、そういうの全然こだわらないから」  そう言って、セーラは笑みを浮かべた。 「その代わり、リースには何があっても、しっかり指輪付けて貰ってるわよ」 「何で?!」 「そんなの決まってるじゃない、浮気避けよ」  すました顔をして、セーラはビールを飲む。  隣でリチャードは「女って怖いな……」と独り言を呟いた。

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