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第20話

7.  クラレンスから仲介を依頼されて、三日目が過ぎた。リチャードは何も捜査が進展せず、少し焦りを感じ始めていた。いつもであれば、捜査に協力してくれるレイから、何かしらのヒントを得て、捜査に手応えを感じ始める頃合いだ。それがレイからは何の音沙汰もなく、リチャードの不安は増すばかりだった。  結局、昨晩もレイからは連絡はなく、ローリーからも、その後何も言っては来なかった。何も言って来なかったということは、彼はレイと連絡が取れたのだろうか、とも思う。だがあえてそれを、わざわざ電話して尋ねるのも気が引けた。  オフィスの自分の席に座ったリチャードは、テイクアウェイしてきたコーヒーをすする。 『ミルクたっぷりのコーヒー淹れてよ』  夜を共にした翌朝、必ずレイは甘えた声で、そうリチャードに頼んできた。  緩くカールした明るいふわふわの栗色の髪、美しい榛色の瞳、思わずキスしたくなる桜色の唇。リチャードの脳裏に、それらのイメージが浮かんで離れない。  今頃どこで何をしているのか……レイの隣にはあの男がいるのだろうか、リチャードはそう思うと、いても立ってもいられなかった。 「リチャード、コートールド・インスティテュートのラボから連絡あったわよ」  メールチェックしていたセーラが、声を掛けてくる。 「どうだった?」 「やっぱり贋作だったわ。使っている絵の具が現代の物で、トリノの聖母子が描かれたとされる15世紀の物ではないそうよ」 「そうか……」  リチャードは考え込んだ。レイはあの時、絵を一目見ただけで贋作だと見破っていた。てっきり彼の能力の高さがそうさせたのだと、その時は思っていたが、もしかしたら以前にも同じ絵を見たのではないか?  リチャードには、どうしてもあの絵を見た時のレイの反応はそうだった、としか思えなくなっていた。  だとすれば、いつどこであの絵を見たんだ?  やはり鍵はジュリアン・テイラーが握っているのかもしれない。

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