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第21話

「それと、あの絵のプロヴィナンス(絵の持ち主の系譜状)を出したギャラリーなんだけど、ちょっと気になる話があるの」 「何だ?」 「四年前に店を畳んでるのよ」  セーラの言葉に、リチャードは目を見張る。 ――また四年前…… 「ギャラリー・パーマーっていう名前の店だったんだけど、四年前オーナーが自殺して、跡を継ぐ人間がいなかったために、ビジネスを閉めてるわ」 「自殺というのは間違いないのか?」 「ええ。一応警察の捜査が入ってるけど、不審な点が何も見つからなかったことから、自死で処理されてる」 「当時、店に勤務していた人に話を聞けないかな?」 「それが、一人は二年前に病死していて、もう一人は南アフリカに帰国してるの。一応南アフリカの警察に照会のコンタクト取ってるんだけど、ちょっと時間が掛かりそうね」  セーラはそう言った後「こういうのは餅は餅屋で、レイくんに聞くのが一番早いんだけど」と付け加える。  確かにアートギャラリーの業界の話を聞くならば、まずはレイに……というのが今までの流れだった。ところが、彼とはここ二日間まったく連絡が取れない状況だ。リチャードは、レイに頼るのを諦めざるを得なかった。 「ギャラリーがあった場所の住所を教えてくれ。近所で当時を覚えている人間がいないかどうか、聞き込みに行ってくる」  リチャードは立ち上がると、ジャケットを羽織った。セーラは、メモにギャラリーの住所を書くと彼に手渡す。 「ボンドストリートか……随分いいところに店を構えてたんだな」  ボンドストリートと言えば、ロンドンでも一流のハイエンドブランドが建ち並ぶ、高級ショッピングエリアだ。この並びには例のクラレンス・オークションハウスもあり、世界各国から、富裕層がこぞって買い物に訪れる通りだった。

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