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第23話

8.  ボンドストリートは、ロンドンの繁華街の南北を結ぶ長い通りである。かつてギャラリー・パーマーがあった場所は、現在ではスイスの有名な高級時計店になっていた。  リチャードは、高級時計店の左右の店を見る。  右側はイタリアの高級皮革製品の店、左側は宝飾店だった。どちらも店構えが新しい。多分、この数年のうちに、ここでビジネスを始めた店であろう。  リチャードは期待することなく、両方の店舗にギャラリー・パーマーについて何か知らないか尋ねに入った。  結果はどちらも収穫なしであった。  やはり両店舗とも、ここ数年のうちに店を始めていたため、ギャラリー・パーマーがあったことすら、店のスタッフは誰も知らなかった。 ――仕方ない、通りにある店を順番に一店舗ずつ聞いて回るか……  リチャードは覚悟を決めて、聞き込みを済ませた宝飾店の隣の店に入る。ここはフランスの有名なファッションブランド店だった。  やはりここのスタッフも、誰もギャラリーについては知らなかった。  そしてまた隣の店、そしてその隣へ……とリチャードは一店舗ずつ聞き込みに入る。だがギャラリー・パーマーについて何の情報も得られない。  何店舗目だったのか、リチャードもはっきりと数が分からなくなった頃、そこにあるのがギャラリーだと気付いて、もしかしたら、と期待が高まる。同業者であれば、知っている可能性も高いだろう。  リチャードは扉の取っ手に手を掛けようとした……と、その時、内側からドアが勢いよく開く。  リチャードは一歩下がって、ドアが完全に開くのを待った。 「レイ!」  中から出てきたのはレイだった。  レイはリチャードを見て驚いた顔をして、一瞬立ち止まる。そして慌てて目を逸らすと「ごめん、リチャード今は何も聞かないで」と逃げようとする。  そんな彼の手を、リチャードは咄嗟に掴んだ。 「待ってくれ!」 「……手、離して」 「どうしたんだよ? 電話にも出ないし、何を一人でこそこそやってるんだ? あの男は一緒じゃないのか?」  そう言って、リチャードは周囲を見回す。 「……何言ってるの? あの男って誰?」 「ジュリアン・テイラーだよ」 「……どうしてジュリアンを知ってるの?」  レイは驚いた顔をして、リチャードを見つめる。 「やっぱり、あの男と何かあったのか? レイ、どうして何も言ってくれないんだ?」 「い、言える訳ない……だろ」  口ごもりながらレイが俯く。その表情は悔恨に満ちていた。

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