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第24話
「あの男は、レイの恋人だったのか……?」
「違うよ! そんなんじゃない」
レイは思わず声を荒げてから、しまった、という顔をして周囲を見る。道行く買い物客や観光客が、何事かと二人を見ていた。
「ここでは話せない。僕の家に来て」
「……聞き込みが終わってからでもいい?」
「無駄だよ。リチャード、ギャラリー・パーマーについて調べてるんだろ? 昨日からこの通りの店に聞いて回ってるけど、収穫ゼロだよ」
「レイ……昨日から、ずっと聞いて回ってたのか?」
リチャードはレイを見る。レイは疲れた様子で肩を落とし、ぼんやりと足元を見つめていた。
「ここで立ち話するよりは、レイの家に行った方が良さそうだな」
二人は並んで歩き出す。
ボンドストリートの南側の端まで出て、ピカデリー大通りを渡り、セントジェームスストリートを南下すると、レイの住居兼ギャラリーがあるホワイトキャッスルストリートに出る。歩いている間、二人は無言だった。
リチャードは何度か口を開きかけたが、その度にぐっと堪えた。今何かを話そうとすれば、絶対にジュリアンの話題になってしまう。
そしてジュリアンの話はレイにとって、今一番触れて欲しくない話題なのだろう、と彼には分かっていた。分かっていても、言葉にしたら尋ねてしまいそうで、結局何も言えずじまいだった。
二人はレイの家のリヴィングルームに入る。ここまで一言も発していない。二人の間をぎこちない沈黙が流れる。レイは我慢しきれない様子で、ようやく口を開いた。
「リチャード、何か飲む?」
「いや、今はいい」
「……怒ってる?」
レイは、リチャードとは目を合わせようとしない。リチャードはそんな彼の様子が気に入らず、レイの両肩を乱暴に掴んで彼の顔を覗き込む。
「俺は怒ってない。どうして何も言ってくれないんだ? お願いだから、隠し事しないでくれよ。心配で……不安で、どうしたらいいのか分からない。レイが……俺から離れていってしまいそうで」
「リチャード……」
「ジュリアン・テイラーはきみの何なんだ? どんな関係があるんだ? 言いたくないなら、言わなくても……別に構わないけど……」
「あいつは恋人なんかじゃない。……四年前、僕はあいつに騙されたんだ」
「騙された?」
「……話、長くなるからソファに座って」
リチャードはレイに促されてソファに座る。その隣にレイも座った。
「あれは四年前の、丁度今と同じくらいの時期だったんだ……」
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