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第30話
そこは小さな応接室で、顧客用に用意された部屋らしかった。でも、置かれているソファもテーブルも古臭くて、これでは、高級趣味の顧客にはあまり良い印象を与えないのではないかな、と僕は人ごとながら、とても心配になってしまった。
「どうぞお座り下さい」
僕は勧められたソファに腰を下ろして、ぐるりと部屋の中を見回す。
ギャラリーの雰囲気には不似合いな、どこか東洋の景色が描かれた絵が壁に掛けられているのが目に付いた。
「チャイナの絵ですか……?」
「……いいえ、ジャパンです」
「素敵な絵ですね。パーマーさんはジャポニズムに、ご興味があるんですか?」
僕は社交辞令のつもりで尋ねた。アート業界にいる人間であれば、多少なりともジャポニズムには興味がある。ジャポニズム本来の作品に興味がなかったとしても、影響を受けた画家は多いので、アートに携わっていれば必ずどこかしらで関係してくる。会話の口火を切る話題としては無難だった。だが、アルフィーの返事は僕が想像していたようなものではなかった。
「あの絵は私の親しい友人の手によるものなんです。彼はジャパニーズなのですよ」
そう言って、微笑んだアルフィーの表情はとても優しかった。
彼はその話題はここまで、と言わんばかりにこほん、と軽く咳払いすると、本題に入った。
「……こちらが、テイラーさんが欲しがってる絵なんですが」
そう言って、アルフィーは一枚の絵を足元から持ち上げると、テーブルの上に載せた。そして包んでいたサフロンカラーの布をゆっくりと開くと、それは10号サイズの絵で、初期イタリアルネサンスの特徴が良く出ている聖母子が描かれたものだった。
「トリノの聖母子、と呼ばれる絵です。テイラーさんから、詳しい話はすでにお聞きになっていますよね?」
「あ、はい。作者は不明なんですよね」
「ええ。ピエロ・デッラ・フランチェスカの弟子の一人が描いたと言われてます」
「あの……絵を見せて頂いても?」
「勿論ですよ」
アルフィーは柔らく微笑んで、テーブルから絵を取り上げると、僕に手渡してくれた。
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