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第40話
10.
レイは話を終えると、ぐったりとソファに身を沈めた。
「何か、飲み物持ってこようか?」
「……うん、ワインがいいな。白にして」
リチャードは立ち上がると「銘柄、何でもいい?」と尋ねる。
「うん、どれでも。適当に選んで」
レイはソファに寄りかかって、目を閉じている。リチャードは心配そうに一瞥すると、キッチンへ行き、備え付けのワインセラーから適当に白ワインのボトルを一本抜き出した。そして戸棚からワイングラスを二つ取り出して、リヴィングルームへ戻る。
リチャードはワインボトルのコルクを手際良く抜くと、グラスに注いでレイに手渡した。
「ありがとう」
話し続けていて喉が乾いていたらしく、レイはまるで水のようにワインをぐいっと一息に飲み干してしまう。
「もう一杯くれる?」
レイはリチャードにワイングラスを差し出した。リチャードは言われるがまま、ボトルからワインを注いだ。二杯目はじっくりと味うようにして口に含む。
「……リチャード、僕を軽蔑したよね」
「何言ってるんだよ、軽蔑なんかする訳ないだろう?」
「でも、僕リチャードを好きだって思ってたのに……それなのに、違う人に靡きそうになったりして……」
レイは俯いた。
「俺は、嫉妬してるよ」
リチャードは、一言一言噛みしめるように言った。
「リチャード?」
「レイは、俺を五年間ずっと見ていてくれたけど、俺はその間のレイを知らない。でもあの男は、四年前のレイを知ってるんだ。みっともないぐらい、あの男に嫉妬してるよ。もっと早く出会いたかった。五年前のレイに。そうすれば、きみにこんな辛い思いをさせずに済んだのに」
そう言って、リチャードはレイの手からワイングラスを取り、コーヒーテーブルの上に置くと、彼を抱き締めた。レイはリチャードの背にきつく手を回す。
「リチャード……このまま僕を抱いて。お願い……もう二度とあいつを思い出さずに済むように……」
リチャードはそれを聞くと、そっとレイをソファに押し倒した。
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