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第41話
11.
翌朝、リチャードは携帯電話の呼び出し音で、目が覚めた。手を伸ばして、ベッドサイドテーブルの上から携帯電話を取り上げると、応答ボタンを押す。
「リチャード、今どこ?」
「……セーラ?」
「昨日から連絡取れないから、心配したのよ?」
「あ……ごめん。連絡入れるのすっかり忘れてた……」
リチャードは目をこすって、部屋の壁に掛かっている時計に目をやる。時刻はすでに9時半を回っていた。
「やばっ、遅刻……」
慌ててリチャードはベッドから体を起こす。
「スペンサー警部には、リチャードは今日は外勤するって言ってあるわよ」
「あー、悪い、セーラ本当に助かるよ」
「今どこにいるの? フラット?」
「えーと、そんなところ」
「……レイくんのところにいるのね」
リチャードは、何で分かったんだ? と思ったが、あえて何も返答をしない。
「レイくん、大丈夫だったの?」
「うん。昨日、ギャラリー・パーマーの聞き込みで回ってる時に偶然会って、その後話を聞いたんだ……」
その話の内容は、セーラには言わないでおく。きっとレイは誰にも知られたくないと思っているのに違いない、とリチャードには分かっていたから。
「そう。大丈夫そうなら安心したわ。今日はどうするつもり?」
「引き続きギャラリー・パーマーについて調べてみるよ。レイが心当たりがありそうなアートディーラーに、片っ端からメールを送ってくれてるから、見込みがありそうなら、そっちの聞き込みに回ろうと思ってる」
「そう、分かったわ。何かこっちで調べる必要が出てきたら、すぐに連絡頂戴」
「サンキュ」
リチャードは通話終了のボタンを押して、携帯電話をベッドサイドテーブルの上に載せる。
「ねえ、セーラ何だって?」
「俺がどこで何してるのか心配してたんだ」
「ふふ、言えないよねえ。昼間っから僕の家にしけ込んでセックスしてたなんて」
「言える訳ないだろ」
レイはリチャードに抱きついて、彼の胸に頭を載せる。ふわり、と栗色の髪の毛がリチャードの目の前に広がった。リチャードは愛おしそうに、その髪をゆっくりと梳く。
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