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第42話

「……レイ、一つだけ質問してもいいかな。もしも答えたくなければ、答えなくていいから」 「なあに?」  ベッドの中で肌が密着しているという安心感が、いつもよりもレイを素直にさせていた。リチャードは今なら聞けるかもしれない、と思い切って気になっていたことを尋ねる。 「……レイの最初の相手って彼、なのか?」  レイはそれを聞くと、がばっと勢いよく体を起こして、リチャードの顔をじっと見る。  一瞬、リチャードは尋ねてはいけない質問を口にしてしまったか、と焦った。 「ち、違うから……ジュリアンじゃないから……僕、彼とはキスしかしてない。信じて貰えないかもしれないけど……」  リチャードも半身をベッドの上に起こし、レイと差し向かいになると、彼の頬に手を当てて優しく微笑む。 「信じるよ」 「……うん」  リチャードの脳裏に、じゃあ一体彼の最初の相手は誰だったのだろう? と別の疑問が浮かぶ。考え出すときりがない、とは分かっていたものの、見も知らぬ相手に嫉妬してしまう自分の心の狭さに、内心自己嫌悪していた。 「……リチャードを知るずっと前の話だから」 「ん?」 「昔の話なんだ……だから、嫉妬する必要なんてないから」 「……それでも俺は嫉妬するよ。俺が知らない頃のレイを知ってるってだけで、嫉妬の対象になるんだ」  リチャードは苦笑した。大の大人が嫉妬するなんて、見苦しいもんだなと思いつつ、彼はレイにそう伝えずにはいられなかった。 「過去の僕はリチャードにあげられないけど……でもこれからの僕は、全部リチャードのものだから。それだけじゃ足りない?」 「レイ……」  レイは訴えかけるような表情でそう言うと、リチャードに抱きついた。リチャードは彼を抱き締め返す。 「ごめん。嫉妬するなんてみっともなかったよな」 「……そんなことない。僕だって嫉妬するもん」  レイの言葉を聞いて、突然リチャードはサーシャと二人きりでランチに行ったのを思い出した。 ――まずい、あの件は内緒にしておかないと…… 「もう少ししたら、ギャラリー開けないといけないんじゃないか?」  リチャードは内心の焦りを感じ取られないように、慌てて話題を変えた。 「……うん。今日、ローリーいつもより30分遅れてくるって言ってたから、僕が開けないといけないんだ。こうやってもう少しゆっくりしてたいんだけど……」  レイは名残惜しそうに体を離して、するりとベッドから抜け出す。まるで大理石で出来たギリシャ彫刻のような美しい肢体だ。そのまま、彼はシャワーを浴びる為にバスルームへ入っていった。その様子をリチャードは見ながら、自分やジュリアン以外にも彼に人生を変えられた人間がいるのだろう、と思っていた。  そして自分も彼の後を追い、バスルームへ入って行った。

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