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第44話
「いえ、構いませんよ。ところでどのようなご用件で?」
「大した話じゃないんですけどね……昨晩私のギャラリーのオープニングパーティがあったのですが、ちょっとした騒ぎがありまして……」
「騒ぎ?」
「……僕がパーティを台無しにしたって、因縁付けられてるんだ」
レイが明らかに機嫌を損ねた表情で言う。
「どういう意味ですか?」
リチャードはジュリアンの方を向いて尋ねる。レイは昨晩は自分と一晩中一緒だった。パーティになんて行ってはいない。ジュリアンのギャラリーのオープニングパーティを台無しにした、という意味がリチャードには、まったく分からなかった。
「僕のパーティにジャーナリストだと名乗る男が来ましてね、あることないことべらべらと客に吹き込んでいったんですよ。お陰で僕の評判はがた落ちです。パーティの途中でみんなお客は帰ってしまうし、せっかくの顧客獲得のチャンスを棒に振ってしまいましたよ」
ジュリアンは憎々しげにそう言って、レイの顔を見る。あくまでもレイが企んで彼を陥れたのだ、と思い込んでいるらしい。
「僕がそんな汚い手を使って、お前を陥れたりする訳ないだろ? そんなことしたら、僕もお前と同じ穴の狢になるじゃないか。そんな真似するぐらいなら、自分自身でパーティに行って、お前が僕にしたこと全部暴露する方がましだよ」
レイの気性を考えれば、多分こちらが正解だろう。リチャードは彼の言葉に納得していた。
「じゃあ、一体誰があんな真似を?」
ジュリアンもレイの言葉を聞いて、考えを改めたようだった。
「ジュリアンは、あちこちで恨み買ってそうだもんね」
レイは思いきり嫌味な口調でそう言った。ジュリアンはそれを聞いて一瞬むっとした顔をしたが、満更思い当たらない節もないらしく、それには何も言い返さない。
「そのパーティに来たという、ジャーナリストを名乗る男の特徴を教えて頂けますか?」
リチャードの問いに、ジュリアンは前夜の不愉快な闖入者の特徴をすぐさま挙げた。
「年の頃は40代後半、白髪交じりの黒髪で、背の高さは5フィート7インチくらい、あんまり垢抜けない服装で、金に困ってるような雰囲気だったな」
「嫌がらせされるような心当たりは?」
「あるからここに来たんじゃないか」
「人聞き悪いな。僕は何もしてないよ!」
レイはジュリアンを睨み付ける。ジュリアンはどこ吹く風、という態度で軽くレイを見やると「怒った顔がまた可愛いな」と言う。
リチャードはその言葉を聞いて、内心穏やかではなかったが、ぐっと堪えた。
「何か他に気になった様子や態度などは、ありませんでしたか?」
「……そう言えば、僕が贋作を取り扱ってるとかなんとか、しきりに言ってたな。あ、刑事さん、言っておきますけど、僕はそんなのしてませんからね」
ジュリアンは人をくったような笑顔で言った。
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