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第45話

 リチャードはそれを聞くと、この狐が、と内心毒づいたが、表情には出さずに質問を続けた。 「それで、あなたはどうされたんですか? 自称ジャーナリストとは、直接お話されたんでしょう?」 「ええ、勿論ですよ。何故そんな真似をするのか詰め寄りました。だって、オープニングパーティは大事なビジネスの場ですよ? これからの僕の生活が懸かってるんです。そりゃ本気で怒りますよ」 「それで相手は何と答えたんですか?」 「僕は人でなしだから、これは当然の報いだ、と平然とした顔で言われました」 「ぶっ、それ本当じゃない」  レイは思い切り吹き出して笑った。ジュリアンは面白くなさそうな表情で黙っている。 「やはり、あなたに恨みがある人間が、仕組んだようですね。何かもっと、本人を特定出来るような特徴を思い出せませんか?」  リチャードの問いに、ジュリアンはしばらく考え込んでいたが、ふいに思い出したようで、ああ、と小さく呟くと口を開いた。 「本人は必死に隠していましたけど、彼はスコットランド出身だと思いますね。言葉の端々に、隠しきれない訛りがあったんですよ。ロンドナーの振りをして話していましたが、絶対に違います」  リチャードはそれを聞いて、数日前に会ったばかりの人物を思い出していた。ジュリアンに気付かれないように、レイの顔を見る。レイも同じ事に気付いたらしく、そっとリチャードと視線を合わせて頷いた。 「分かりました。あなたのギャラリーのパーティを台無しにした人間については、私の方で探し出します」 「そうですか。それは助かります。もうこれ以上私のビジネスの邪魔をしないように、しっかり釘を刺して頂けますか? 僕はそれ以上は望みませんから」  そりゃそうだろう、とリチャードは密かに思う。後ろ暗い商売しているのだから、これ以上はやぶ蛇だ。そもそもここへ来たのだって、パーティを台無しにした犯人を捕まえに来た訳ではなく、多分それを口実にレイを物にしようと考えてやって来たに違いなかった。つくづく自分がこの場にいて良かった、とリチャードは安堵する。 「それじゃ、よろしく頼みます」  ジュリアンはそそくさとギャラリーを後にした。彼自身これ以上は、余計な詮索を生むだけだ、という自覚があるのだろう。

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