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第46話

 彼がギャラリーの外へ出てしまうと、レイが待ちかねていたように、リチャードに話しかける。 「ジュリアンのパーティを台無しにしたの、あの人だよね?」 「……間違いないだろう。彼が描写するような人間が、ロンドンに何人もいるとは思えない。セーラに頼んで何者なのか探って貰うよ」  二人が思い出していたのは、数日前に東ロンドン、ストラットフォードに行った時に会った男だった。あの時はデニス・モイヤーと名乗っていたが、本名かどうかも今となっては怪しかった。  リチャードは、ジャケットのポケットから携帯電話を取り出すと、登録番号を押した。数コールで、すぐにセーラが出る。 「何か調べて欲しい案件が出たみたいね」 「ああ、デニス・モイヤーと名乗る男について調べて欲しいんだ。住所は……」  リチャードは先日訪ねた住所を、セーラに伝える。 「その男は昨日の夜、ギャラリー・テイラーのオープニングパーティに行って、パーティを台無しにしたらしい」 「……何だかリチャードちょっと嬉しそうじゃない?」 「何言ってるんだよ、そんな訳ないだろう?」 「そうかしら? 声が嬉しそうなんだけど」 「とにかく、その男について、何でもいいから分かれば教えて欲しいんだ。数日前に俺が会った時には、アートディーラーの肩書きだったが、昨晩のパーティーではジャーナリストだと名乗っていたらしい。身体的特徴は白髪交じりの黒髪で、身長は5フィート7インチ、年齢は40代後半ぐらいでスコットランド訛りがある」 「分かったわ。調べたら連絡するわね」 「よろしく」  リチャードは通話をオフにすると、レイの方を振り返る。彼はラップトップコンピューターの画面をじっと見つめていた。 「……ギャラリー・パーマーについて知ってる人から連絡来たよ」 「本当か?」 「うん。この人、以前はロンドン中心部でギャラリーやってたんだけど、店閉めてしばらくパリにいたんだよ。数ヶ月前にこっちに戻ってきて、東ロンドンのオールドストリートに、書店兼ギャラリーを新しくオープンしたんだ」 「オールドストリート……今から行くか」  リチャードが行く決意をした時、後ろから「おはようございます」とローリーの声がした。 「ああ、おはようございます」 「ジョーンズ警部補いらしてたんですね」 「あの、これから聞き込みに出かけるところなんですが、レイをお借りしていってもよろしいでしょうか?」 「構いませんよ。彼は僕の許可なんてなくても、とっくに行く気満々でしょうから」  ローリーはそう言うと、肩をすくめて苦笑する。  見るとレイはすでにラップトップコンピューターを机の引き出しにしまって、立ち上がっていた。 「行こう、リチャード。ローリー、後よろしくね」 「はいはい。いってらっしゃい」  レイと入れ替わるようにして、デスクの椅子にローリーは腰を下ろした。もう慣れているので、今更どうということはないらしい。リチャードは一応申し訳なさそうに「すいません、行ってきます」と声をかけて、レイと共にギャラリーを出た。

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