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第52話
「……どういうこと?」
レイが眉を潜めて尋ねる。
リチャードはそうか、と思い出す。確かセーラがアルフィー・パーマーは自殺したのだ、と言っていなかったか?
「僕は、もうこの時はパリに行ってたから、詳細は知らないんだけど、何でも資金繰りに困った挙げ句、自殺したんだ……って」
ジェイムスの言葉に、レイは呆然とした表情で彼を見つめる。
「……知らなかったのか?」
リチャードはレイに尋ねた。レイはふるふると力なく首を振った。
「……あの後、僕は色んな事を思い出したくなくて、その辺の情報は意識して耳に入れないように、シャットダウンしてたんだ。まさか自殺してたなんて……」
レイは言葉なく俯いた。きっと彼の心の中では、様々な思いが去来しているのだろう。
リチャードはジェイムスの方を向くと、気になっていたことを尋ねた。
「当時ギャラリー・パーマーに勤務していた人を知りませんか? 一人は二年前に亡くなって、もう一人は南アフリカに帰国した、という情報はこちらでも得ているのですが」
「ああ、知っていますよ。亡くなったのは番頭格だったジョンさんです。普段のギャラリー経営の細かい部分は、全て彼が受け持ってました。彼がいなかったら、先代のパーマーさんも、店をあそこまで大きく出来なかったんじゃないかな。とても有能な人でしたから。先代のパーマーさんとジョンさんは、幼なじみだったと聞いてます。二人共本当に仲が良かったですよ。それと南アフリカに帰国したのは、アディさんという女性です。彼女は自分の国でギャラリーを開業するための勉強に、当時ロンドンに来てたんですよ」
「そうですか……」
リチャードはアディという女性が、南アフリカでギャラリーをしている、という情報を得られただけでも調査の足しになるか、と思い、それ以上の情報収集は諦めた。
と、ジェイムスが「あれ? そう言えば……」と突然何かを思い出したようだった。
「僕もあまりよく覚えていないんですけど、確か息子さんが跡を継いでから、東洋人の従業員が入ってきていたような気がします。今でこそ、そんなに珍しくなくなりましたけど、当時はまだ東洋人が、従業員としてギャラリー勤務しているのは、ちょっと目を惹いたんですよね。でも彼は従業員と言うよりも、見習いって感じだったかな。あまり店には出ていなくて、バックオフィスで働いてる方が多かったから。だから、僕も話したことがないし、ちらりと見た記憶しかないんですけど……」
「東洋人、ですか」
「ええ。どこの国だったかなあ。多分中国とか、日本とかその辺りだったような気が……」
その言葉を聞いた時、リチャードの脳裏に何かが、ちかり、と光ったような気がした。もう少し手を伸ばせば光に手が届くのに、そのもう少しが近くて遠い。一体何が自分の意識の中に引っ掛かっているのだろう? とリチャードは、もどかしい気持ちでいっぱいになる。
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