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第64話
リチャードはそれには答えず、彼の質問を口にする。
「テイラーさん……ギャラリー・パーマーという名前に聞き覚えはありますか?」
「ギャラリー・パーマー? 随分昔にビジネスを閉めたギャラリーだと思いますが?」
「あなた個人との関わりについて、お伺いしたいんですが」
「そう言えば、一、二度取引きをしたことがあったような」
ジュリアンは、とぼけた口調で答える。
「……レイの卒業試験の際に、世話になった店ですよ」
リチャードがそう口にすると、ジュリアンの表情が少し厳しいものに変わる。どこまでこの男は知ってるんだろう? とリチャードを値踏みするような顔だった。
「……そうでしたかね?」
「あなたは店のオーナー、アルフィー・パーマーさんにトリノの聖母子の絵を託して、レイと商談の真似事をするように依頼しましたね?」
「そんなこともあったような。……もう四年も前の話だから忘れましたよ」
「あのトリノの聖母子は最初から本物ではない、とあなたはご存知だったんですよね?」
「……そうなんですか? 僕はてっきり本物だと思ってましたけど」
「やはり覚えていらっしゃるんじゃないですか」
リチャードの質問にまんまと引っ掛かったことに気づき、ジュリアンは小さく舌打ちする。
「あなたは四年前、アルフィー・パーマーさんに、お父上が購入した絵の代金が未払いなのと引き替えに、レイのために一芝居打って欲しい、と依頼してあのトリノの聖母子をギャラリーに持ち込みました。レイは卒業試験だから、とあなたに騙されてギャラリーへ商談へ行き、そしてパーマーさんはあなたのシナリオ通りに、レイを相手にお芝居をしました。ところがその後の展開は、残念ながらあなたの目論見通りにはいきませんでした。レイはあなたの言うなりにはならず、腹を立てたあなたは、パーマーさんに絵の代金を支払えと迫りましたよね?」
「……それのどこがいけないんですか? 僕が売った絵の代金を支払って欲しい、と彼に請求したのは、何も間違ってないと思いますけど」
「最初からあなたは、トリノの聖母子が偽物なのを知っていました。どうやってあの絵を手に入れたんですか? あれは元々、アルフィー・パーマーさんが所有されていた物だった筈です」
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