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第65話
ジュリアンは顔色を変えることなく、リチャードを睨み付ける。そして不敵な笑みを浮かべて言った。
「……彼のお父上から譲って貰ったんですよ。仕事の代金の代わりにね。あなたは僕が後ろ暗い商売をしている、と疑ってるようですけど、実際にそういう商売をしていたのは、アルフィー・パーマーの父親だったんですよ。僕は彼に唆されて、何度か手伝いをしただけです。その頃、もうすでに彼の店の経営はかなり危ない状態だった。時代の流れが変わっても、彼は自分のビジネスのやり方を変えようとはしなかったからです。アートディーラーっていうのは、その時代に合わせて、自分の感覚も変えていかないと生き残れないんですよ。でも彼は感覚を変えるどころか、古臭いやり方にしがみつき、時流にすら乗れなかった。だから黒い商売に手を出したんです。ところが彼の仕事の手伝いをしたものの、彼は僕に支払う金すらなかった。だから、彼の店の倉庫にあった中から、良さそうな絵を引き取ったんですけどね。そのうちの一枚が、あのトリノの聖母子だった、って訳ですよ」
リチャードはジュリアンの話は眉唾ものだな、と正直思っていた。本当は、彼が語っているのとは反対の立場だったのではないのか……? つまり、ジュリアンがアルフィーの父親に、彼の黒い商売の手伝いをさせていた、というのが真実だったのではないだろうか。だが、今や事情を知るアルフィーの父親はすでに他界している。本意ではなかったが、目の前の胡散臭い男が語る言葉しか、判断材料がなかった。
ただ、ジュリアンが仕事の代金の代わりとして、パーマーの店の倉庫から引き取った絵の中に、トリノの聖母子があった、というのは事実のように聞こえた。
そう言えば、レイの回想話で、ジュリアンのギャラリーとギャラリー・パーマーは、同じような三流の印象派の画家の絵が掛けられていた、と話していなかったか? もしかすると、ジュリアンがパーマーから引き取った絵を、自分のギャラリーに展示していたから、同じような絵が掛かっていたのではないだろうか。
間違いなく、ジュリアンはパーマーの件に深く関わっていた。それだけは確かだ。
リチャードはあえてジュリアンに反論することなく、のらりくらりと質問を続ける。
「アルフィー・パーマーさんがその後自殺されたのは、ご存知ですか?」
「……ええ。でも、もうその頃はベルリンにいましたから、詳しい話は何も知りませんよ」
「あなたが持ち込んだトリノの聖母子と絵の代金請求が、自殺の原因だったのもご存知ない?」
「……さあ。それは亡くなったご本人だけが、知ってる話じゃないんですか?」
ふっ、とジュリアンは気が緩んだような笑みを浮かべた。もう全ての真実を知るアルフィー・パーマーは、この世にはいない。自分の犯した罪を知る人間は誰もいないのだ、とジュリアンは安心しきっている様子だった。
「……ところで、あなたのパーティを台無しにした人物ですけれど」
「ああ、その話が聞きたかったんですよ。一体どこの誰だったんですか?」
「彼はデニス・モイヤーという、自称ジャーナリストでした。本当のところは、頼まれれば金次第でどんな仕事でもする、何でも屋だったようです」
「……頼まれれば?」
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