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第71話

*追憶の聖母子像 おまけ編『追憶のSNS』  『トリノの聖母子』事件が無事に終わり、リチャードは上機嫌でレイとの待ち合わせ場所であるパブへ向かっていた。  レイから送られてきた携帯のメッセージには、夏のホリディの予定を決めよう、と書かれていた。二人が付き合って初めて行く旅行、リチャードは考えただけで、胸が弾んで仕方がなかった。考えてみたら、今まで付き合ってきた彼女とも旅行になんて行った経験はなかった。当時は仕事が忙しすぎて、それどころではなかったのだ。  AACUはMET内のお荷物部署と呼ばれ、他部署よりも比較的暇な時が多いが、お陰でこうやってレイと旅行に行けるのだから、何が幸いするのか分からない。  リチャードは目的地であるパブ、White Hartのドアを開けて中に入る。 店内は勤め帰りの会社員や、近所の人たちで賑わっている。人混みをかき分けるように、リチャードは店の奥へ向かう。彼はきっといつもの席にいるはず。リチャードが店の奥を覗いて見ると、レイが一人ぽつん、と座ってワイングラスを傾けていた。 ――あれ? 今日はシャンディじゃないんだな……  リチャードは疑問に思いながら、自分のビールをカウンターで買うと、奥の席へ向かう。レイはリチャードの姿を認めて、視線を上げた。 ――ん? 何か様子がおかしくないか……?  いつもなら、リチャードを見るなり彼はにっこりと笑顔で迎えてくれるのに、レイの表情は固いままだ。  しかも今日は夏のホリディの予定を決める、という楽しい話題が待っているはずなのに、この態度は明らかに変だった。 「……レイ?」  リチャードが声をかけると、レイは無言のまま、テーブルの上に載せてあった携帯電話を取り上げて、ゆっくりと彼の目線へ上げる。  レイの携帯電話の画面には、リチャードの姿が映っていた。 「……?!」  リチャードは意味が分からず、じっとレイの携帯画面を見つめる。 「何この写真?」 「それ僕のセリフ。リチャード、何この写真?」

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