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第72話

 リチャードはレイから携帯を受け取ると、レイの隣のスツールに腰を掛けて、画面に映る写真をじっくりとよく見る。それはリチャードが食事中らしき写真で、店のスタッフと何やら話しているところが撮影されていた。 「それ、ブルック巡査のインスタなんだけど」  リチャードが全然気付かないので、レイはじれったそうにそう言った。 「……は、はあ?」 「リチャード、インスタ知らないの? SNSの一種なんだけど」 「いや、インスタは知ってるけど……これ……何?」  リチャードの頭の中は大パニック中だった。一体何故こんな写真がインスタに? と言うか、レイは何と言った? ブルック巡査……? 「ああっ、あの時の……」  リチャードの記憶が一気に蘇る。  『トリノの聖母子』事件の捜査中、レイがジュリアン・テイラーと一緒に居るところをたまたま見かけたリチャードは、嫉妬に我を忘れて、翌日の昼、つい誘われるがままにサーシャとランチに行ったのだった。  そしてランチ中、サーシャが「ジョーンズ警部補、私お水が飲みたいんですけどぉ」と言うので、店のスタッフを呼び止めて、水をオーダーしたのだが……どう見ても、その時に撮られた写真としか思えなかった。  どうやらサーシャはリチャードが、彼女から目を離した隙を狙って撮影したのに違いない。  リチャードは、写真に付けられたコメントを見る。  そこには『大好きな人とランチ中♡』と書かれていた…… 「ああああっ、こ、これはっ、いやっ、そのっ、あのっ……」  リチャードはしどろもどろになりながら、慌てまくってレイに何とか言い訳をしようとする。レイはそんな彼の様子を冷たい目で見ながら、ワイングラスに口をつける。そして一口白ワインを飲むと「可愛い女の子と二人きりで食事なんて、ずいぶんと楽しそうじゃない?」と冷めた口調で言った。 「ち、違う、違うんだよ」 「何が違うんだよ?」 「これは……あの、ブルック巡査に誘われて……」 「ふうん、誘われたら簡単に食事に二人きりで行っちゃうんだ」 「そ、そうじゃなくて、レイがジュリアン・テイラーと一緒に居るんじゃないかって思ったら、ちょっと嫉妬しちゃって……その……」 「何? 僕がジュリアンと浮気してると思ってた訳?」 「……」 「そんなに僕って信用ないんだ」 「そういう訳じゃ……」 「じゃ、どういう訳だよ?」 「すいません。俺の勝手な勘違いです」

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