72 / 82
第72話
リチャードはレイから携帯を受け取ると、レイの隣のスツールに腰を掛けて、画面に映る写真をじっくりとよく見る。それはリチャードが食事中らしき写真で、店のスタッフと何やら話しているところが撮影されていた。
「それ、ブルック巡査のインスタなんだけど」
リチャードが全然気付かないので、レイはじれったそうにそう言った。
「……は、はあ?」
「リチャード、インスタ知らないの? SNSの一種なんだけど」
「いや、インスタは知ってるけど……これ……何?」
リチャードの頭の中は大パニック中だった。一体何故こんな写真がインスタに? と言うか、レイは何と言った? ブルック巡査……?
「ああっ、あの時の……」
リチャードの記憶が一気に蘇る。
『トリノの聖母子』事件の捜査中、レイがジュリアン・テイラーと一緒に居るところをたまたま見かけたリチャードは、嫉妬に我を忘れて、翌日の昼、つい誘われるがままにサーシャとランチに行ったのだった。
そしてランチ中、サーシャが「ジョーンズ警部補、私お水が飲みたいんですけどぉ」と言うので、店のスタッフを呼び止めて、水をオーダーしたのだが……どう見ても、その時に撮られた写真としか思えなかった。
どうやらサーシャはリチャードが、彼女から目を離した隙を狙って撮影したのに違いない。
リチャードは、写真に付けられたコメントを見る。
そこには『大好きな人とランチ中♡』と書かれていた……
「ああああっ、こ、これはっ、いやっ、そのっ、あのっ……」
リチャードはしどろもどろになりながら、慌てまくってレイに何とか言い訳をしようとする。レイはそんな彼の様子を冷たい目で見ながら、ワイングラスに口をつける。そして一口白ワインを飲むと「可愛い女の子と二人きりで食事なんて、ずいぶんと楽しそうじゃない?」と冷めた口調で言った。
「ち、違う、違うんだよ」
「何が違うんだよ?」
「これは……あの、ブルック巡査に誘われて……」
「ふうん、誘われたら簡単に食事に二人きりで行っちゃうんだ」
「そ、そうじゃなくて、レイがジュリアン・テイラーと一緒に居るんじゃないかって思ったら、ちょっと嫉妬しちゃって……その……」
「何? 僕がジュリアンと浮気してると思ってた訳?」
「……」
「そんなに僕って信用ないんだ」
「そういう訳じゃ……」
「じゃ、どういう訳だよ?」
「すいません。俺の勝手な勘違いです」
ともだちにシェアしよう!