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第73話
素直にリチャードは頭を下げて謝った。
「勘違いしたら、ブルック巡査と二人で食事行ってもいいんだ」
「ごめん。断れなかった……」
「リチャードは、僕が一人でギャラリー・パーマーの聞き込みの為に足を棒にして歩き回ってた時、ブルック巡査と二人きりで楽しくお食事してたんだねぇ」
「……いや、全然楽しくなんかなかったよ。あの時、俺の中ではレイとあの男が今どこで何してるんだろう、って嫉妬の嵐が渦巻いてすごく辛くて、彼女の話なんてろくに聞いてなかったし、食事も正直味なんて全然してなかったんだ……まるで砂を食べてるみたいな感じだったよ……」
リチャードはそう言って苦笑した。それは本当だった。あの時のことを思いだしただけで、リチャードの心はざわざわと落ち着かなくなる。ジュリアン・テイラーはロンドンを離れてベルリンへ行ったが、いつまたロンドンに戻って来るかは分からない。そうなったら、自分がレイを守り切れるのか不安で仕方なかった。
リチャードの言葉を聞いたレイは、少し悲しげな顔をして目を伏せる。
彼の心の中には、まだあの男の姿があるのだろう。レイが「ジュリアンを忘れられない」と苦しそうな表情で涙を流した姿を、リチャードは忘れられなかった。
「……今回は、僕もリチャードに迷惑かけちゃったし、この件はこれで終わりにしてあげる。ちゃんと謝ってくれたしね」
レイはそう言って、微かな笑みを口の端に浮かべた。
「悪かったよ。二度と彼女と二人きりで食事には行かないから」
「……もう浮気しないで」
「う、浮気ではないような……気がするんだけど……」
「浮気だろ? 僕の知らないところで二人きりで食事に行って、しかも何あれ? インスタのコメント読んだだろ? 『大好きな人とランチ中♡』」
レイはご丁寧に「ハート」まで読み上げる。
「……俺も全然知らなかったんだってば」
「僕に対する当てつけとしか思えないんだけど」
「いや、でもブルック巡査は俺とレイの関係は知らないし……」
「分かんないよ。女の勘って鋭いから、意外と気付かれてたりしてね」
「えっ!? そんな怖いこと言うなよ……」
「そうだよね-、僕たちの仲は秘密だからね-」
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