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第74話

 レイはワインをぐいっと飲み干して、リチャードの前にこれ見よがしに、空になったグラスを乱暴に置いた。 「この店で一番高いワインにして」 「……は、はい」  リチャードは言われるがまま、カウンターへ行き自分のビールと、一番値段が高いワインをボトルで一本購入する。  テーブルに戻り、レイの前にボトルを置くと、彼はラベルをじっと見た後、満足そうな笑みを浮かべて「ありがと」と言った。 「ねえ、今日リチャードのフラットに泊まりに行ってもいい?」 「……?」  リチャードはその時初めて、レイの座っているスツールの隣に、高級ブランドの紙袋が置かれているのに気が付いた。てっきり何か買い物をしてきたのかと思ったが、違うらしい。 「レイ、これ?」 「んー、お泊まりセット」 「お泊まりセット……?」 「だって、僕の私物、何もリチャードのフラットにないじゃないか。だから少し置かせてよ。いつ泊まりに行っても困らないように」  レイはにっこりと満面の笑みで、リチャードを見つめる。 ――あ、もしかして、これの布石だった……ってこと?  リチャードがパブに訪れた時に、真っ先にあの写真を見せられたのは、この為だったのか、とようやく気付く。あれを見せられたら、絶対にリチャードはレイの頼みを断れない。 「そんな回りくどい真似しなくても、全然構わなかったのに。俺がレイにはNoって言わないの知ってるだろ?」  リチャードの言葉を聞いて、レイは恥ずかしそうな表情を浮かべる。 「……言いにくいだろ、こういうのって」 「レイでも言いにくいことあるんだな」 「あるよ。リチャードは一体僕を何だと思ってるの?」 「言いたいこといつも言ってると思ってた」 「……ほんっとにリチャードて、時々すごく失礼だよね」  レイは呆れた顔になって、ワインをボトルからグラスに注ぐ。 「美味しいよ。飲む?」  レイはワイングラスをリチャードに差し出す。リチャードはそれを受け取ると一口含んだ。 「うん、さすがに値段だけあるな」 「僕を怒らせた代償は高くついたね」 「……二度としないから」 「しないで。リチャードは僕だけのものだから」  レイの眼差しが誘うような色を浮かべる。

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