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第75話

見ていると引き込まれてしまいそうな、深い榛色の瞳。リチャードはレイを今すぐに抱き締めて、彼の言葉を態度で肯定してあげたかった。俺はいつも、いつでもきみだけのものだ、と耳元で甘く囁いてあげたかった。  だが、ここはパブの中だ。人目があり過ぎて到底無理だった。  代わりに優しい眼差しで彼を見つめると、愛情を込めた笑みを向ける。  レイはうっとりとした表情で栗色の髪をかき上げると、リチャードの視線を受け止め、少しだけはにかんだ笑みを返してから、何も言わずに満足そうな顔をして俯いた。 「ところで、質問があるんだけど」 「ん? なあに?」 「どうやって、この写真見つけたんだ?」  リチャードは疑問を口にする。まさかレイが、天敵であるサーシャのインスタをフォローしているとは思えない。いや、天敵であるが故、彼女の動向を探る為に、逆にフォローしているということもあり得るのか? 「ああ、あれ? あれはローリーが送ってきたんだよ」 「へ? ローリーさんが?」  レイの六歳年上の従兄弟のローリーは、レイのギャラリーのアシスタントディレクターを勤めている。実質的には彼が実務のほとんどを普段はこなしており、彼なしにはギャラリーの運営は成り立たなかった。  リチャードは、そのローリーの名前が出たので驚く。  彼は、少しだけ長めにしたブルネットの髪と、黒縁眼鏡の奥の知的なブラウンカラーの瞳の主を思い浮かべる。あの人がSNSをやってるなんて、あまり想像出来ないな、と思った。だが、そんな思いを見透かしたかのように、レイが口を開いた。 「あの人さ、SNS大好きなんだよね。ツイッターにインスタ、フェイスブック、何でもやってるよ。ただし、自分がポストするんじゃなくて、読み専だけどね」 「……読み……専?」 「そう。リチャード知らないの? ローリーは、ただ単に情報を得たいだけだから、アカウントは持ってるけど、自分は一切何も情報はアップしないんだよ。あの人昔からゴシップ大好きだからねえ」  少々呆れたような物言いで、レイはローリーを評した。 「じゃ、あの写真も……?」 「そう。だからさっきから言ってるじゃないか。あれ見つけたのローリーだって」 「それで、レイに送ったのか……?」 「そうだよ。ねえ、何でそんなに僕の言葉を疑ってるの? 僕よりもローリーを信じてる訳?」 「ち、違うよ。何だか見た目によらないな、と思ってさ……」 「リチャードって騙されやすいよね。ローリーを見誤ってると、そのうちカモにされるよ?」 「カモ?」 「そ、あの人すっごくそういうところ、打算的だからね。自分の得になるんだったら、どんな人でも利用するから。リチャードも気を付けておいた方がいいよ」

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