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第76話
レイの思いがけない発言に、リチャードは返す言葉が見つからなかった。
「僕にこの写真送ってきたのだってさ、この間の仕返しなんだよ」
「仕返し?」
「うん。少し前にね、ジュリアンがギャラリーに来て、僕に乱暴しようとしたんだ。そこをローリーが助けてくれたんだけど、僕が助けに来るのが遅い、って文句言ったから、その仕返し」
「……でも、どうして俺の写真が仕返しになるんだ?」
「多分だけど、ローリーは僕とリチャードのこと気付いてるんじゃないのかな」
「え?! 本当なのか? それは……まずいんじゃないのか?」
「気にしなくても平気だよ。ローリー、こういう美味しい話は、絶対他人に言うような人じゃないから。それよりも、自分の楽しみに取っておいて、こうやってちくちく僕を苛めるのが好きなんだ」
レイは諦めたような口調でそう言う。
「ちくちく苛めるって……」
「昔からそうなんだよね。僕がこんな性格になったのも、半分はローリーのせいだと思うな」
「そうなのか?」
「リチャードは、気にしなくていいよ。しばらくの間、ローリーは適当にあしらっておいていいから。もう僕も彼もこういうの慣れてるし、いつものことだよ」
何でも無いようにレイはそう言うと「ね、このワイン、リチャードのフラットに持ち帰って、二人で映画見ながら飲もうよ。ピザでも宅配で取ってさ」と付け加えた。
「そうだな。何見る?」
「リチャードの家にあるDVDだったら何でもいいよ。何か持ってるんでしょ?」
「最近買ってないから、古いのしかないと思うけど……まあ、何か見られるものはあると思うよ」
リチャードはワインボトルを手にして立ち上がる。そしてレイも自分が持ってきた紙袋を大事そうに抱えると、リチャードの後についてパブを出た。
「リチャードのフラット行ったら、ホリディの予定も立てないとね」
「それはレイに任せるよ。プランニングはレイの方が得意だろ?」
「うん。じゃ僕に一任して。……リチャードと旅行に行ける日が来るなんて、本当に夢みたいだよ」
レイの嬉しそうな笑顔を見て、リチャードは密かに、こんな可愛い恋人の様子を見せられたら、落ち着いて映画なんて見ていられる自信がないな、と心中穏やかではいられなかった。
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