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第77話
おまけのおまけ『Jealousy Game』
初夏の頃のロンドンは日が長く、日の暮れは夜九時を過ぎた頃である。リチャードとレイがフラットへ戻るために、それまで飲んでいたパブから外へ出ると、街中はまだ昼間の明るさだった。
冬の間と違って、日が長い分、人々も外の生活を存分に楽しむべく、この時間帯はまだまだ多くの人たちが路上を行き交っていた。
「夏の間は日が長いから、なんだか得した気分になるよね」
自分の私物が入った高級ブランドの茶色い紙袋を大事そうに抱えたレイは、うきうきとした表情でリチャードにそう言う。
「そうだな。その分冬は薄暗くて寒くてやり切れないから、これでとんとんなんじゃないのか?」
「それもそうだけど……キャブ拾う? バス?」
「キャブにしよう、その方が早い」
リチャードは大通りに出ると、ブラックキャブの空車を見つけて呼び止めた。
二人がリチャードのフラットへ戻ると、レイは勝手知ったるという様子で、さっさとフロントルームへ入っていく。
「ねえリチャード、早くピザ頼んで。お腹空いちゃったよ。マルガリータでいいから」
レイは紙袋を床に置くと、早速しゃがみ込んでTV台の棚に並ぶDVDとにらめっこする。
「随分シンプルなのを頼むんだな。もっと具が載ってるのじゃなくてもいいのか?」
「そういうのはリチャードの好みでしょ? 僕、シンプルなのが好きなんだよ」
「分かった、じゃ頼んでおくよ」
リチャードはキッチンに置いてある宅配をしてくれる店のパンフレットの中から、ピザ屋のものを探し出すとメニューを確認して注文した。
店のスタッフは「30分で配達に行きますから」と言ったが、英国では大抵30分の口約束は1時間と見た方がいい。リチャードはそう思ったが、言ったところで何も変わらないので「よろしく」とだけ伝えて電話を切った。
リチャードがキッチンからフロントルームへ戻ると、レイは相変わらず棚に並んでいるDVDとにらめっこを続けていた。
「……ねえ、リチャードって007(ダブルオーセブン)のファンなの?」
「なんで?」
「だってこれ、大体全部シリーズ揃ってるよ? こんなに揃えてる人初めて見た……いつもTVで繰り返し放送されてるのに、わざわざDVD全部持ってるなんて、余程のファンだよ」
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