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【住み込みアシスタントはデッサンモデル ① いっそ、拒んで】
◆じれったいお題ったー 様より
~お題【いっそ、拒んで】~
【キャラ紹介】
*幕尾 扉
プロの漫画家。
日達より二つ年上で、高校の先輩。
ぶっきらぼうで愛想もないが、日達の前だと表情筋がいつもより働いている気がしている。
が、気だけである。
*日達 英二
幕尾の家政婦……寄りなアシスタント。
幕尾の後輩。
表情がコロコロ変わっているが、本人は高校生の時よりはポーカーフェイスを作れているつもりらしい。
経緯は色々と割愛するが。
俺こと、幕尾扉は高校時代の後輩……今では恋人の日達英二と、同棲している。
器用さというステータスを愛嬌に全振りしたのかってくらい不器用で可愛い日達は今現在、忙しなく洗濯物を畳み中だ。
日達とは同棲しているが、ただの同棲じゃない。
日達は、漫画家である俺の【住み込みアシスタント】も兼務している。
洗濯物を畳んでいる日達を見ていると、家政婦にも見えるが……アシスタントだ。
「先輩? 手が止まってますよ?」
「ん、あぁ。お前を見てた」
「っ! し、しめ、締切! 間に合わなくなりますよ!」
「あぁ」
事実を言っただけなのに、顔が赤くなっている。
……おそらく、照れているのだろう。
日達は感情がすぐ顔に出るから、分かり易い。
……正直、そういうところも可愛くて仕方ないから、困りものだ。
「日達」
名前を呼ぶと、顔を赤くしたままの日達が、椅子に座る俺を見上げる。
「ん」
椅子に座ったまま両腕を広げると、日達が面白いくらい分かり易く、硬直した。
畳みかけていた洗濯物を強く握って、皺を作っているくらいだ。
「ぇ、あ、え……っ?」
「来い」
さっきよりも顔を赤くした日達が、戸惑った様子で視線を彷徨わせた。
……なにも、難しいことは要求していないはずなんだがな……。
「どうした、来い」
「うぅ……っ!」
暫く逡巡していた日達をもう一度呼ぶと、覚悟を決めたのか……。
洗濯物を床に置いて、そっと、近寄って来た。
目の前に立ち尽くす日達は、まだ視線を泳がせている。
……一向に、目が合わない。
それがなんとなく悲しい、気がする。
「日達」
「し、失礼……し、します……っ」
膝の上に座り、日達が控えめに抱き付いてきた。
椅子から落としてしまわないよう、しっかりと抱き留める。
そんな俺の手にすら、日達は過敏に反応した。
つまり、体が硬直したのだ。
「嫌か?」
日達が声を出さず、首を横に振る。
どうやら、嫌々近寄ってきたわけではないらしい。
となると……照れている、ということか。
「先輩は、その……ス、ストレート、ですよね……っ」
「ん? まぁ、お前が好きだからノンケではないか。だが、ゲイというわけでもない。お前だけだ」
「そういう意味じゃなくてっ!」
いったい、日達はなにを言っているんだ?
日達の頭を撫でながら、次の言葉を待つ。
耳まで赤くなったまま、日達がポツリと呟いた。
「――あっ、愛情、表現……が」
……なるほど、そういうことか。
どこが照れる要素なのかは、分からないが。
確かに、高校時代は変なプライドが邪魔をして、日達に想いを伝えられなかった。
その頃に比べたら、幾分ストレートではあるだろう。
「嫌か?」
もう一度、訊ねてみた。
すると、日達ももう一度、首を横に振る。
……なんら問題なさそうだ。
日達からすると、こういうことはまだ恥ずかしいのかもしれない。
妙に純なところがあるから、そこはもう慣れてもらうしかないが……。
そもそも、本当に嫌なら拒んだりするだろう。
それをしないということは、同意だと解釈されても文句は言えないぞ。
「日達、こっち向け」
「え――んっ」
触れる程度のキスを落とすと、日達がまた顔を赤くする。
「せ、先輩っ! いきなりは――ん、むっ」
抵抗できるように、抱き締める力は加減しているつもりだ。
いつだって、胸を押されれば止めるつもりでもある。
けれど、日達は抵抗しない。
文句は言っていたけれど、顔を背けたりしないのだ。
「はっ、ん……せん、ぱ……っ」
触れるだけのキスなのに、日達は瞳を潤ませて俺を見ている。
いつの間にか、しがみつく手の力も増していたらしい。
そんな日達を見て、変な気にならないわけがない。
「嫌なら止める」
シャツの中に手を入れると、日達がビクリと体を震わせた。
もう何度も体を重ねているのに、そういう反応をされると余計にそそられる。
――いっそ、拒んでほしい。
――だが。
「――い、や……じゃ、ない、です……っ」
――日達は、俺を拒まなかった。
俺の恋人は、超が付くほどの照れ屋だが。
――存外、素直なのだ。
【住み込みアシスタントはデッサンモデルオマケSS:いっそ、拒んで】 了
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