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【雨音だけが知っていた ① くるしい、きもちいい】
◆じれったいお題ったー 様より
~お題【くるしい、きもちいい】~
【キャラ紹介】
*デュラハン
死期の近い人間の前に現れる妖精。義人の死が近いからそばにいるだけで、助けるつもりは毛頭無いと豪語している。人の魂を奪うくせに、人のことはイマイチ理解していない
*久米川 義人
余命宣告を受けた美青年。デュラハンと出会ってからは笑顔が増えた。デュラハンを「デュラさん」と呼び、心から懐き心から愛している。圧倒的純愛。
呼吸が苦しい日は、別に珍しくなかった。
だけどそれを『苦しい』って思わないわけじゃない。酸素を吸い込みたいのに上手く取り込めないし、そのくせ肺にある酸素を吐き出しちゃうから。
苦しいのは、苦しい。
「はっ、あ、く……ッ! デュ、ラ……さ」
発作が起きると、いつもは黙ってやり過ごしていた。厳密に言うと呼吸を乱しているから黙ってなんかいないけど、それはスルー。
――それでも、今は違う。
閉じていた瞼を必死に開けると、笑みが零れてしまう。これはもう、仕方ない。
――だって、嬉しいんだから。
「来て、く――は、あッ」
「苦しいのか」
俺に呼ばれたら、すぐ来てくれるデュラさんが……大好き。
デュラさんは人間じゃないから、発作を起こしている俺に対して、何をどうしていいのか分からない。たぶん『苦しそうだから苦しいんだろうな』ってくらいの乾燥だと思う。
フードを目深に被ってるし、マフラーも巻いてるから顔なんて全然見えないけど……きっと、俺を心配してくれてる、はず。
――だから、好き。
「はぁ……ッ、だ、じょぶ……少しっ、ま、って……ッ」
「……分かった」
意味なんて無いけど、入院服の胸元を汗ばむ手で強く握る。呼吸を落ち着けようと目を閉じて、努力してみた。
「焦らなくていい。我はここに居る」
そんな俺に、デュラさんはどこまでだって優しい。
――好きって気持ちに、上限なんてないんだ。
いつかは俺の魂を刈り取っちゃうデュラさんだけど、そんなのどうだっていい。
俺はデュラさんに顔を向けて、何とか笑みを浮かべて見せた。無理矢理浮かべてるんじゃなくて、嬉しいって気持ちを伝えたいから浮かべたんだ。
暫くして、発作が治まった。俺は何とか平静を取り戻して、デュラさんを見上げる。
「今日も来てくれて嬉しいっ」
「そうか」
デュラさんの手を、グローブ越しに握ってみた。少しだけ戸惑ってるけど、これはいつものこと。デュラさんは優しいから、俺の手を握り返してくれる。
――だから、欲が出ちゃう。
「デュラさん……キス、してほしいな」
フードとマフラーの隙間から見える金色の瞳が、チラッと俺を見る。何だか、睨んでるみたい。デュラさんは目付きが悪いからそう見えるだけだと思う。
――だってデュラさんは優しいから。
「長いのがいい」
「する前提なのか」
「ダメ……?」
わざとらしく小首を傾げたら『やれやれ』って言いたげな感じで、マフラーを下げてくれた。俺がどういうキスをしてほしいかって伝えたら、その通りのキスを送ってくれる。
――本当に、デュラさんは優しい。
冷たい唇が俺の唇を塞いで、冷えた舌が歯をなぞる。
「んっ、んん……ッ」
俺はキスに慣れてるわけじゃないから、長く口を塞がれるとちょっと苦しい。
――でも、これは苦しくないんだ。
「ん……ふぁ、あ……んんっ」
唇が離れそうになっても、手をギュッと握ったら続けてくれる。言わなくたって、俺の考えはデュラさんに伝わるんだ。
本当に、デュラさんは優しい。
――優しすぎて、他の誰かに好かれないか心配になっちゃうくらいだよ。
「あ……は、ぁ……ッ」
「大丈夫か」
お願いした長いキスが終わると、デュラさんはぎこちなく俺の頭を撫でてくれた。声も、どことなく心配そう。
それもそっか。俺、さっきまで発作起こしてたんだし。
「……うん、大丈夫」
強がりなんかじゃなくて、本心。デュラさんに伝わっているかは分からないけど、本当に大丈夫なんだよ。
――デュラさんがくれる苦しさなら、何だって気持ちいいんだから。
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