16 / 31
【同じ色じゃなくていい ① 飲み込んだ言葉の墓場】
◆小説用お題ったー。様より
~お題【飲み込んだ言葉の墓場】~
【キャラ紹介】
*不破 悠仁
高校の養護教諭兼生徒会顧問。
失恋で傷心していた帳に誘われるがまま、手を出した。
なにを考えているのかイマイチ読めない。……が、心根は優しい。
*帳 幸
高校三年生で現生徒会長。
前生徒会長である夜船に告白するも振られてしまい、傷心中。
不破に抱かれることで、心の平静さを保っている。
*夜船 南斗
帳の一期前生徒会長。
物腰柔らかで模範的な生徒。
――ずっと、帳は夜船が好きだった。
得意でもない作り笑いや、人付き合いができるようになったのは……全て、他の誰でもない、夜船のおかげ。
夜船に振られ、自身の想いに区切りはついたけれど……心まで変わったわけではない。
夜船の真似をして笑い、夜船がしそうな返答をしてみる帳だが……。
――帳はいつまでも、帳のままだった。
* * *
教室に向かい、自分の席に座った帳は違和感に気付く。
教科書をわざと置いたままにしたりしない、帳の机。
その中に、身に覚えのない【なにか】が入っていたからだ。
「…………っ」
声を出しそうになり、帳はなんとか言葉を飲み込む。
机の中に手を入れ、指先に触れた【なにか】を引っ張り出す。
そして……違和感が【杞憂】ではないと、気付いた。
――机の中に入っていた【なにか】は……ラブレターだ。
可愛らしい文字で『帳会長へ』と書いてある。
帳はチラリと、時刻を確認した。
――まだ、ホームルームまでは余裕がある。
そう把握した後。
帳はそっと、教室から出た。
* * *
帳が向かったのは、養護教諭である不破が居る保健室だ。
不破は突然やって来た帳に対して驚きはしなかったが、机の上に置かれた紙切れには驚く。
「……コレを俺に見せて、なにをしたいんだ?」
夜船を模してから……帳は恵まれた容姿も後押ししたのか、よく好意を寄せられるようになった。
ラブレターなんて、特段珍しくもない。
今までの帳なら、向けられた好意に返事をしていた。
――それは、かつて帳が夜船に言われたことと全く同じ返事。
……けれど。
――今日の帳は、少し違う。
「先生……オレ、告白されるみたいです」
「だな。シールがハートだ」
「この子と付き合ったら……もう、先生に抱いてもらえないんですかね」
不破の眉間に、皺が寄る。
要領を得ないといった顔をしているが、その表情に帳は笑う。
「この子って【オレ】が好きなんですかね? ……それとも、夜船会長を模した【オレ】……?」
椅子に座る不破へ跨り、帳は不破の鼻先に自身の鼻先を擦りつける。
「そう考えてるオレって、結構……性格、悪いですよね」
自嘲気味に笑う帳は、不破の唇に自身の唇を押し付けた。
決して巧くはないキスに、不破は不破で、特に抵抗もしない。
「こんな余計なことを考える自分に、なんだかとても……やるせない気持ちです。それだったら……オレは、先生からラブレターを貰いたいです」
「は?」
「その方が、よっぽど信用できます」
小さく笑った帳は、なにかに満足したのか。
それだけ言って、不破から下りた。
そのまま保健室から出て行こうと背を向けた帳の腕を……。
「――付き合うのか。その生徒と」
不破が、掴んだ。
当然、帳は驚く。
そのまま……不破の問いに、帳は肩を揺らして笑った。
「あはっ。なに言ってるんですか。……今はオレ、そういうの考えられないですよ。そんなこと、先生が一番分かってるじゃないですか?」
「……そうだな」
「変な先生」
先に【変なこと】をしてきたのは帳だが、不破はそれを責めない。
帳にとってなにが楽しいのか、不破には分からなかった。
けれど、帳は満足そうだ。
弾むような歩みのまま、帳は今度こそ保健室から退出しようとして。
――一瞬だけ、立ち止まった。
「先生、今日の放課後……生徒会室で会いたいです」
帳はそれだけ言い残し、保健室から退出する。
* * *
不破は椅子の背もたれに深く寄り掛かり、溜め込んでいたもの全てを吐き出すように、息を吐く。
脳裏に浮かぶのは、帳が貰ったラブレターだ。
「『告白されるみたいです』……か」
帳にとっては、誰かに好意を寄せられることは苦なのかもしれない。
だが……入学してからずっと、帳を見続けていた不破からすると。
――素直に好意を伝えたその生徒が、羨ましくて仕方なかった。
この気持ちを、不破が帳に伝えられる日がくるのかは……分からない。
無邪気に、不破からのラブレターなら信用できると言っていた帳を思い返し、不破は溜め息を吐く。
飲み込み続けているその言葉を、墓場に送るつもりはない。
けれど……吐き出すのは今じゃないと、不破は分かっているのだ。
だからこそ、不破は溜め息を吐いた。
【同じ色じゃなくていいオマケSS:飲み込んだ言葉の墓場】 了
ともだちにシェアしよう!