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【半歩ずつ踏み込もう ① わざと掛け違えたボタン】

◆小説用お題ったー。様より ~お題【わざと掛け違えたボタン】~ 【キャラ紹介】 *相田(あいだ)雨太郎(あめたろう)  圧倒的優等生系高校生。マニュアル人間。  同級生の傘野に告白されてから、携帯小説というジャンルの本で恋愛を勉強中。  ……だが、文体があまり好きではないらしい。 *傘野(かさの)(らい)  感情論でしか物事を話せない系高校生。思っていることは割と顔に出る。  無表情な相田が本を読んでいるとときたま眉間に皺を寄せている姿に、なぜだかキュンとくるらしい。  ――相田雨太郎は見てしまった。  しかし、見てしまったことを言葉に出していいのか熟考し……結論として、閉口する。  相田は先日、同じクラスの傘野雷に告白されたばかり。  現在、全く好みでも趣味でもない恋愛小説を読んで恋愛を勉強するほど、愛や恋に疎い高校生だ。  そんな相田は、あることに気付いてしまった。 「さっきの体育、傘野マジでいい動きしてたな!」 「よ~し! 俺がメダルやるよ、メダル!」  ジャージから制服に着替え終わり、体育館から出て廊下を歩きながら友人二人にチヤホヤされている傘野についてだ。  傘野は満面の笑みを浮かべて、誇らしげな表情を浮かべている。 「だろ? メダルは要らないからジュース奢って!」 「いや、金を出すほどの……功績? だっけ? ……まぁ、それほどじゃない!」 「なんだよそれ!」  随分と低俗な会話だと、相田は思う。  けれど相田は閉口したまま、傘野をジッと見つめた。  ――正確には、傘野の胸元だが。 (ボタンの掛け違え……何故、誰も指摘しない?)  そう。  ――傘野は着ているワイシャツのボタンを、掛け違えているのだ。  当の本人は気付いていないし、おそらく友人二人も気付いていない。談笑に夢中で、胸元のボタンなんか気にも留めていないのだ。  どう見たって、アンバランス。  けれど、相田は口を挟まない。  ――厳密には、挟めないだが。 (自分が口を挟むことでもない)  友人が気付かないということは、大した変化ではないのだろう。そう思い込ませて、やり過ごす。  むしろ、その変化に気付いているのが相田だけだとしたら……それは傘野に対して、意識の表れだ。  確証を得ていない感情だというのに、傘野を期待させるのは得策ではない。  つまり……【指摘しない】という行為は、相田なりの善意だった。  しかし、傘野を意識しているかどうかは置いておいても……衣服の乱れに気付いてしまった手前、優等生の相田が全く無関心でいるのは無理な話だろう。 (気付かないものだろうか)  このままでは、傘野の小さな変化に相田一人が気付いたことになる。  それは恋愛小説で学んだ『気付けば相手のことを目で追っている』に該当するということだ。  『意識されていた』と期待させたくはない、真面目な側面と。  【衣服の乱れは放置しておけない】という、真面目な側面。  同じようで相反する思考に悩む相田の耳に、ふと。 「――って、おい、傘野? お前、制服のボタン……なんか、ズレてるないか?」  ――期待していた言葉が、届いた。 「え?」  友人一人が、ボタンの掛け違えを指摘した声だ。  本気で気付いていなかったらしい傘野が、友人に指で指し示されている自分の胸元へ視線を落とす。  そんな様子を、相田は少し離れた位置から眺めた。  ――相田が安堵したのは、束の間だ。 「――あ、えーっと……わ、わざと、だったり? あ、あははっ」  ボタンの掛け違いに照れた傘野が、少しだけ顔を赤くしながらはにかむ。  友人二人が「ウソつけ~っ!」とか「俺が直してやんよ!」とじゃれ合う中、相田だけは愕然とする。 (……なんだ?)  傘野とその友人から視線を外し、相田は足早に教室へ向かった。 (不整脈か。……いや、健康状態に問題はない。となると……体育の疲れの可能性も……)  胸の奥で生じた、不可解なざわめき。  そんな不調の理由が分からず、相田は無表情のまま困惑する。  はたから見ると、周りに無関心な仏頂面の優等生だろう。  しかし……内心では、静かに動揺しているが。  そんな相田の様子を、ほんの少しだけムッとした表情で傘野が見ていたけれど……当然、相田は気付かなかった。 【半歩ずつ踏み込もうオマケSS:わざと掛け違えたボタン】 了

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