◆【こどもの日】に思いついたネタです。 【キャラ紹介】 ＊山瓶子(やまちょうし)麒麟(きりん) 　元は人間、今はリビングデッドな社会人の青年。 　感情があまり表に出ないが、それはリビングデッドになった後遺症などではなく、そういう性分。 　表情に出ない代わり、最近はストレートに思ったことを口にする。 ＊馬男木(まなき)雪豹(ゆきひょう) 　雪男だけれど病院の先生。山瓶子の担当医。 　感情は顔に出まくるが、思っていることを口にするのは苦手。よく、しどろもどろになっている。 　照れて体が温かくなると、水滴が毛先から零れるらしい。 　その日。 　目が覚めた瞬間、山瓶子麒麟は……。 　――天啓を受けた。 　＊　＊　＊ 「『子供の姿になれるのか』……ですか？」 　定期健診を終えた後、馬男木は驚きを隠すことなくそう訊き返す。 　訊ねたのは当然、山瓶子だ。 　山瓶子は病院特有の丸椅子に座ったまま、馬男木のことをジッと見つめる。 「五月五日は【こどもの日】ですよね。なので、疑問に思いました。以前、職場の同僚が『雪男は女の姿になれるのか』と盛り上がっていたのも思い出し、今の関係性ならば訊いても問題はないかと思い、踏み込みました。すみません」 「誠実と言うか、素直、ですね……。脈絡が、あるようなないような……」 　以前、馬男木は言っていた。 　自宅で一人のとき、馬男木は人の姿を保っていない……と。 　つまり、馬男木は人の姿を【自らの意思で形成している】ということ。 　日によって、馬男木は普段より背が低いときもある。 　そういったことも加味すると……【好きな姿になれる】という可能性が、現実としてはありえるのでは、と。山瓶子は目が覚めた瞬間、気付いたのだ。 　馬男木は困惑しつつ、曖昧な笑みを浮かべる。 「えっと、そうですね……。結論から申しますと、可能……です」 「なるほど」 「確かに、ボクは雪男です。本来の姿は雪なので、この姿は言ってしまえば【仮初め】です。……ですが、あの……」 「ム？」 　馬男木は言葉を区切り、山瓶子から目を逸らした。 　なにか言い辛いこと――訊き辛いことがあるのか、口をモゴモゴと動かしている。 　山瓶子は馬男木の様子に気付いているが、催促はしない。ジッと、言葉を待った。 　そしてついに、馬男木が口を開く。 「――麒麟さんは、その……ショタコン、ということでしょうか？」 「――心外です」 　間髪容れずに、山瓶子は否定の言葉を口にした。 　なぜか、馬男木はとても驚いたような顔をしている。それがまた、山瓶子にとっては不思議だった。 「俺、普段から男児愛好家のような言動を取っていましたか？」 「い、いえ……。今回が初めて、です」 「ム……。今、俺はそんな言動を取っていましたか……？」 「えっと、あの……。てっきり、男児の姿になってほしいのかと……」 　深刻そうに顎を指で押さえつつ、山瓶子は考え込む。 　正面に座る馬男木は馬男木で、困ったような表情を浮かべていた。……なんとも、奇妙な構図である。 　馬男木の言葉を受けて、山瓶子はほんの少しだけ……目を、丸くした。 「いえ。俺はそのままの雪豹さんが好きです。今のは、雪豹さんのことをもっと知りたくなった俺の知的好奇心――押しつけがましいエゴに他なりません」 「え、っ」 「ですが、考えるとそうですね……。今のは、現在の雪豹さんに対する文句のように受け取られる可能性がありました。……反省します、すみません」 「あ、えっ。あっ、あのっ、顔を上げてください……っ！」 　椅子に座ったまま、山瓶子は男らしく頭を下げる。 「俺は、雪豹さんが女になれようと男児になれようと……今の雪豹さんがいい。今の雪豹さんじゃないと勃起しません。俺は無限の可能性がある雪豹さんが好きなのではなく、ありのままの雪豹さんが好きです。なので、大切な雪豹さんを不安にさせてしまった軽率な発言を謝罪します。申し訳ございませんでした」 「ひぁっ、えっ、あ……っ」 「ですが、ひとつだけ言わせてください。俺が抱こうと思っている雪豹さんは今、目の前にいるありのままの雪豹さんです。けれど……俺は、健全な男です。コスプレプレイというものに興味がない、とは言い切れません。なので、今現在の雪豹さんに恥ずかしい衣装を着てほしいという気持ちは――」 「やっ、やめてくださいっ！　こ、ここっ！　職場なのでっ！」 　馬男木が、大声を出したとき。 　――内気で温和な馬男木先生が大声を出すなんて、緊急事態だ。 　そう思った看護師が数人、慌てて診察室に入ってきたのは……言うまでもない。 【リビングデッドと雪男オマケＳＳ：知的好奇心】　了