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【幸福と蜜月 ① 乾燥対策(前編)】

◆ファンアート嬉しかった記念 【キャラ紹介】 *本渡(ほんど)(はてる)  思ったことを割とすぐ、口に出してしまうタイプの青年。本人は『もう少し考えてから行動したい』と思っている。  チンピラに絡まれたら、黙って睨めば勝てるタイプ。 *赤城(あかぎ)鈴華(りんか)  熟考してから発言をするタイプ。本人は『もう少し瞬発的に行動したい』と思っている。  チンピラに絡まれたら、話し合いを提案しそうなタイプ。  それは、ある冬の日。 『この季節は肌が乾燥するね』  そう言って、困ったように笑っていたのは……世界で一番カワイイ俺の恋人。つまりは、赤城さんだ。  ……俺の恋人、赤城さん……か。いい響きだ。  スーパーのお惣菜には一切頼らず、赤城さんは毎日自炊をしている。  だからこそ、手が荒れてしまうんだろう。そのセリフを言った時、赤城さんは自分の手を握っていたのだから。  なので、俺は考えた。仕事中も赤城さんのことを考えるのは割とデフォルトだが、それでもいつも以上に考えたんだ。  おかげで数時間のサービス残業をしたが、それでも後悔と反省はしていない。充足感でいっぱいだからな。  すぐさま、俺は赤城さんの家に直行。 『いらっしゃい、本渡君。お仕事、お疲れ様』  なんて言って出迎えてくれた赤城さんは、穏やかな笑顔というオプションまでついていた。  ――ヤッパリ、赤城さんって【人間】よりも【天使】の部類だよなァ……。  とかなんとか呟くと、赤城さんは目を丸くして『過大評価だよ』って言って、笑ってた。  だけど、俺に背を向けた赤城さんの耳が若干赤くなっていたから……むしろ過小評価な気もする。カワイイの権化だ。  リビングに通してもらってから、俺は満を持して【ある物】を手渡した。 「これって、ハンドクリーム?」  そう言って、赤城さんが小首を傾げる。……今、ココだ。  職場近くの薬局で買ってきたハンドクリームを受け取って、赤城さんは椅子に座ったまま驚いている。 「肌荒れ――って言うか、手荒れ? で、悩んでるのかと思って……。俺、そういうの一回も買ったことないんで、ネットのレビューを参考にしました」 「え……っ? わ、わざわざ調べてくれたのかい……?」 「そりゃ調べるッスよ」  赤城さんが用意してくれたコーヒーを飲みながら、俺は力強く頷く。 「俺の大事な赤城さんの手を守るっつゥ、重大な役目を担うクリームッスよ? どこの馬の骨とも分かんない奴には任せられないッス!」 「だ、大事な……えっと、本渡く――」 「ってか、俺がいっそクリームになれたらどれだけ良かったか……ッ! 俺がハンドクリームなら、是が非でも赤城さんを乾燥から守ります! 一生くっついてます! 死ぬまで一緒にいましょうね、赤城さん!」 「わ、分かった、分かったから……っ」  おかしい。赤城さんの顔が赤いぞ。暖房ついてるし、部屋が暑いのか?  赤城さんは赤い顔のまま、もう一度ハンドクリームに視線を落とす。 「でも、なんだか申し訳ないな……。ぼやくくらいなら自分で対策しろ……とか、言ってくれて良かったのに……」 「そんなこと微塵も考えなかったッスけど、もしかして迷惑でしたか……?」 「あ……っ。す、すまない。そういうつもりじゃ、なくて……」  慌てて、赤城さんが顔を上げた。  そして、悲し気に眉尻を下げる。 「嬉しいよ、とても。ただ……僕はいつも、きみに貰ってばかりだ。それが、不甲斐ないと思って……。現状を嘆くだけの僕は情けないな、と……再認識してしまったんだ」  ――口にするべきじゃなかった。  赤城さんは、そう言いたげだ。  どうしたって、赤城さんは俺に【遠慮】というか……【負い目】みたいなものを抱えているんだろう。  優しくて謙虚な赤城さんは、きっとまだまだ……俺に対して、一歩引いた状態でいる気がする。  ……だけど。 「俺は……赤城さんにとって些細なことでも、俺に話して共有してくれたから……正直、メチャクチャ嬉しかったですよ」  そう言って、椅子を立ち上がる。  不安げな顔をした赤城さんが、俺を見上げた。 「本渡君……? なんで、背後に……」 「ん? そうッスねェ……」  後ろから抱き締めるように、腕を回す。  そのまま俺は、テーブルに置かれたハンドクリームを手に取った。

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