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【幸福と蜜月 ② 乾燥対策(中編)】
◆ファンアート嬉しかった記念
ハンドクリームを手にした俺を見て、赤城さんは悲し気な声を漏らした。
「あっ、ち、違うんだ……っ。本当に、迷惑とかじゃなくて……だから、待って……っ」
その声には、焦りみたいなものも混ざっている。
たぶん赤城さんは、俺がハンドクリームを回収しようとしている……と、思ったんだろう。実に赤城さんらしい発想だ。
……だけど、違うんだよなァ……。
「赤城さん、両手開いてくれますか?」
「え……っ。……こ、こう、かな……?」
「秒で対応するとか、素直でカワイイッスね」
なにをされるか分かっていないのに、指示通り動いてくれる。
こういう素直なところを見ると、赤城さんは俺のことを心の奥底では信じてくれてるんだなァとか思えて……悪くない。
……むしろ、メチャクチャ嬉しい。
頬を少し赤らめた赤城さんが、視線を落とす。伏し目がちなその表情も、ヤッパリ天使級にキレイだ。
「俺、肌荒れとか全然気にしたことないんスよね。でも、赤城さんのこと考えてたら気になっちゃって……。自分の手も荒れてるのかなァとか思ったんスよ」
「……そう、なのかい? でも、えっと……本渡君……?」
「だから、ハンドクリーム……俺も使っていいですか?」
パカッと、フタを開ける。
赤城さんは両手を開いたまま、小さく頷いた。『要領を得ない』って言いたげな感じで。
クリームを指で掬うと、若干ひんやりとした感触。
実際にハンドクリームって物を触ると、美容に気を遣ってる系男子になった気がして……ちょっと恥ずいな、ウン。
という雑念は、とりあえずダストボックス。俺はクリームを指で掬ったまま、赤城さんと距離を詰めた。
――そのまま。
「ほっ本渡君……っ?」
――赤城さんの手を、ギュッと握ってみた。
「ん……なんすか?」
掬ったハンドクリームが、俺の手から赤城さんの手へ。
ぬちぬちとした妙な感触と、赤城さんの手の温かさ。
……それと、プラスして……。
「その……手……が……」
真っ赤になった、赤城さんの顔。
……なるほど。これが【絶景】ってやつか。さすがレビューランキング上位のハンドクリーム。恋人のカワイイ表情まで引き出せるなんて、すげェ。
「ハンドクリームっすからね」
――ぎゅむぎゅむ。
「顔には塗れないっすね」
――ぬりぬり。
折らないように、傷つけないように、痛くしないように。
強弱をつけて、赤城さんの手を握る。……じゃなくて、ハンドクリームを塗ってみた。
「いや……そうじゃな、くて」
今日一番の赤面を晒しながら、赤城さんはひたすら戸惑っている。
……それもそっか。赤城さんは、俺が怒ったとか悲しんだとかって誤解してただろうし。いきなりこんなことされたら、ビックリするよなァ……。
……ウン、カワイイ。俺の恋人は最高だ。
指の付け根から、先端へ。手をそっと撫でると、赤城さんの肩が小さく震えた。
「んっ」
…………なんだ、今の声は。
もう一度、ゆっくりと指をなぞる。
「……あ、っ」
背後から赤城さんの顔を覗き込むと、視線が重なってしまった。
小さな吐息を、赤城さんは漏らす。
――その目が、少し潤んでいて……。
「本渡君……っ」
「なんですか?」
赤い頬と、潤んだ瞳。
それに加えて、赤城さんは……。
「――本渡君の、大きくて……硬くて、すごい……っ」
まるで狙っているかのようなセリフを、口にした。
……ハァア。勘弁してくれ、どういう意味ッスかマジで。
『大きい』のは、手か? じゃあ、たぶん『硬い』のも手だ。ありがとうございます。
なら『すごい』ってなにが? ナニがッスか? 違う、赤城さんはそんなことベッドでしか言わない。解釈違いだ、立ち去れ煩悩ッ!
「本渡、く……っ。少し、痛い……っ」
「え、あ、あ……ッ! ス、スンマセン!」
煩悩と戦っている間に、手の力が強くなってしまったらしい。
俺は慌てて、赤城さんから手を離した。
そうすると……。
「あ……っ」
すごく。
とても。
メチャクチャ。
悲しそうな顔と声が、向けられた。
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