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【幸福と蜜月 ③ 乾燥対策(後編)】

◆ファンアート嬉しかった記念  ……ぐぬ、カワイイ……。 「手、離すのイヤッスか?」 「……っ」 「目で訴えてもダメッスよ。思ったことは俺に共有してください、赤城さん」  ……若干、話を戻そう。  赤城さんは変わらず、俺から一歩引いたところにいるんだろう。  たまに雑談を振ったら、その内容に自己嫌悪する。赤城さんはそういう、不器用で少しネガティブな人だ。  だけど、赤城さんが自分を嫌うなら……その分、俺が『大好き』を言えばいい。  これは、その為のちょっとしたきっかけ。 「……もう、一度……」  遠慮がちな、赤城さんの声。  すかさず俺は、訊き返す。 「『もう一度』……なんですか?」 「…………っ。……手、を……握って、ほしい……っ」 「了解ッス」  背後から抱き締めながら、赤城さんの手をもう一度握る。  耳まで赤くなった赤城さんは、瞳を伏せた。 「とても、安心する……。本渡君の手は、すごいね……」  今度は素直に、赤城さんは思ったことを口にする。  なるほど。さっき言ってた『すごい』っていうのも、手のことだったのか。なるほどなァ……。  ……分かるかッ! 紛らわしいッ! だけど赤城さんが素直カワイイから無罪放免ッ! サヨウナラ、俺の有罪煩悩ッ!  内心騒ぎつつも、赤城さんの華奢な指を俺なりに優しく握る。 「俺も、赤城さんにくっついてると安心します。……いい匂いもするし」 「にお、い……っ。その、まだシャワーを浴びていないから、嗅がないでほしい……っ」 「イヤッス、嗅ぐッス。……あっ、後で一緒に風呂入りましょう? 赤城さんの体、俺が洗いたいッス。それで、後でまたハンドクリーム塗らせてください」 「今……匂いを嗅がないなら、いいよ」 「………………ウッス」  くそぅ、今なら『待て』を言われた犬の気持ちが分かるぞ。  渋々頷くと、赤城さんが小さく笑った。 「ふふっ。……本渡君はいい子だね」 「うわっ、カワイイ」  ――複雑な気持ちッス。  ……ん? 言いたいことと考えてることが逆になった気がする。まぁいいか。  カワイイ恋人を抱き締めたまま、俺は赤城さんの顔を覗き込んだ。  まだ少し赤い顔のまま、赤城さんも俺の顔を見つめ返してくれる。……幸せだ、すごく。  そうすると、赤城さんがゆっくりと口を開いた。 「……あの、本渡君。……ひとつ、訊いてもいい……かな? とても、情けないことなんだけれど……」 「いいッスよ」  赤城さんは小さく微笑んだ後、そっと俺から瞳を逸らす。 「……さっきの、きみがハンドクリームになったら……という話、なんだけれど……」 「ん? ……あ、あ~……確かに俺、そんなこと言いましたね」 「そのことで……少し、気になることがあって……」 「えっ、なんですか?」  小首を傾げて見つめるも、赤城さんはヤッパリ俺から瞳を逸らしたままだ。  そして、蚊の鳴くような声で……。 「――ハンドクリームじゃなかったら、ずっと一緒にいてくれないのかな……って」  そんな、いじらしいことを囁いた。 『俺がハンドクリームなら、是が非でも赤城さんを乾燥から守ります! 一生くっついてます! 死ぬまで一緒にいましょうね、赤城さん!』  この言い方が、少しだけ気になったんだろう。  ……なるほどなるほど。  …………なるほどなァ……。 「赤城さん、今すぐ風呂場に行きましょう」 「えっ、ど、どうして……?」 「愚問ッス」  腕を引き、赤城さんをムリヤリ立ち上がらせる。  赤城さんは、メチャクチャカワイイ。ちょっと天然で、無自覚。だけど、素直で優しい。だから、さっきは無罪にした。  ――だけど。 「――メチャクチャ煽られたんで、ガマンの限界ッス。手荒に抱くッスけど、許してください」  瞬時に。  赤城さんの顔が、発火しそうなほど赤くなった。 「な、なんでいきなり――あっ、本渡君そんな……ご、強引にしないで……っ」 「なんなんですかさっきから! わざとッスか無自覚ッスか小悪魔ッスか! 強引にします! 赤城さん大好きですッ!」 「ご、強引に腕を引かないでという意味で――せ、せめて着替えを取りに行かせてほしい……っ」 「イヤなんで拒絶しないんですかッ! あぁァもうレビューランキング上位ハンドクリームマジパネェなッ! アダルトグッズじゃねェかッ!」 「お、落ち着いて、本渡君……っ」  この後、メチャクチャセックスした。  ……なんていうのは、少し先の話。  結局、赤城さんの望みはなんでも叶えたい俺は……。  ……一度、着替えを取りに浴室直行を断念した。 【幸福と蜜月オマケSS:乾燥対策】 了

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