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【スノードロップに触れられない ① 間接的で直接的な戯れと本心(前編)】
◆ファンアート嬉しかった記念
【キャラ紹介】
*松葉瀬 陸真
俺様何様アルファ様。
有象無象には人当たりのいい完璧すぎる理想のアルファを演じ、唯一ただ一人、矢車相手には素の傲慢で非情な取り繕いが一切無い姿を晒す。
アルファやオメガなど、第二の性を極端に疎む。
*矢車 菊臣
楽観的絶望中毒オメガ。
有象無象には人懐っこくもどこか可愛いダメダメ社会人だと思われていて、唯一ただ一人、松葉瀬相手には可愛くない後輩だと思われている。
第二の性を疎む松葉瀬を見て、ニヤニヤと楽しんでいる。
その日。
矢車は珍しく、動揺していた。
「センパイ……今の、もう一回言ってもらっていいですかぁ?」
ベッドの上で、ワイシャツ一枚だけの姿になった矢車は。
「…………」
ただネクタイを外しただけの松葉瀬を見上げて、動揺していた。
……それも、そのはずで。
「――青あざのこと『青たん』って言ってるのすっごく面白い……じゃなくて可愛いので、もう一回言ってもらっていいですかぁ?」
「――死ね」
松葉瀬の口から出てきた、どこか可愛らしい響きの言葉。
その音を聴いて、矢車は動揺した。
……もとい、楽しんでいるのだ。
「まさか、俺様何様アルファ様の口からぁ? アイドルの愛称に使いそうな『たん』って言葉が出てくるなんてぇ? 世間にコミットしすぎじゃないですかぁ? カッコよさと可愛さのギャップってやつですぅ? ぷぷぷっ、可愛いですねぇ?」
「舌引っこ抜くぞ、クソビッチ」
「えぇ~? それってぇ~? もしかして『タン』でかけてますかぁ? やだ、高尚すぎて大爆笑不可避ですぅ!」
「殺す」
どうして、そんな話になったのか。
いつものように、矢車は松葉瀬と行為に及ぼうとしていた。
その際、矢車は松葉瀬の手によってズボンを剥がされ。
そしてすぐさま、身に覚えのない痣に矢車は気が付いた。
『あれぇ? ボク、そんなところぶつけましたっけぇ?』
当然、松葉瀬から答えがくるとは思っていない。
そして、松葉瀬は呟いたのだ。
――今に至る、自滅のワードを。
『知るか、ボケ。テメェが擦り傷だろうが青たんだろうが……どこ怪我してても俺が知るワケねェだろ』
たかが、言い方の違い。
意味合いは、同じ。
それなのに、矢車は松葉瀬の言い方が妙に気に入ったらしい。
「ねぇねぇ~! ボクのことも『菊臣たん』って言っていいんですよぉ?」
「気色悪い提案するんじゃねェよ。つゥか、たかが方言に食いつきすぎなんだよ、ウザってェな」
「ボクは別に、方言をバカにしてるつもりじゃないですよぉ? ただボクはセンパイをバカに……じゃ、なくて……『ボクのアルファ様は可愛いなぁ』って言ってるだけですぅ」
「それがウゼェんだよ、分かれや」
苛立たし気に表情を歪める松葉瀬を見上げて、矢車はご満悦だ。
いつもは、不遜な態度を隠している。
完璧に見える笑みを浮かべて、誰もが求める言葉を的確に選び、発して……。
そんな【皆が愛するアルファ】を演じる松葉瀬の、本性。
それを知っているのは、矢車だけ。
「プンプンしちゃってぇ……センパイ、かぁわい~っ」
嬉々として松葉瀬の本心を覗きたがる矢車は……存外、イカれているのだろう。
……それか、純情を拗らせているのかもしれない。
ニヤニヤと口角を上げる矢車は、今なお楽し気だ。
ベッドの上で、ワイシャツ一枚だけの姿。だというのに、恥じらいも焦りもない。
細く白い脚を、惜しげもなく晒している。
そのまま矢車は、まるで見せつけるかのように、笑った。
「センパイの大事なオメガたん、青たんできちゃってますよぉ? 心配ですぅ? 過保護になって『俺の菊臣たんに、なにしてるんだよ~』って怒っちゃいますぅ?」
「誰が大事なオメガだよ。俺にそんな相手はいねェ」
「図星なクセにぃ」
からかいながら、矢車はぼんやりと考える。
(う~ん……。どこにぶつけたんだっけ? 思い出せないし、いっそのことウソ吐いてカワイソウなフリしたら……センパイ、心配してくれるかなぁ?)
そして、内心で自嘲気味に笑う。
(センパイがボクの心配とか……ナニソレ、笑えない。絶対してくれるわけないよなぁ……)
それでも、矢車は松葉瀬から脚を隠そうとしない。
(でも、ちょっぴり期待しちゃうのは……複雑な恋心ってやつなのかなぁ? ……なぁんて)
存外、矢車は甘え下手なのだ。
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