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【スノードロップに触れられない ② 間接的で直接的な戯れと本心(中編)】
◆ファンアート嬉しかった記念
矢車の脚に、痣がある。
そのことに対して、松葉瀬は最初こそ心配した。
しかし、すぐに矢車が松葉瀬をからかったのが運の尽き。
ゆえに、松葉瀬すら自覚していなかった【心配】という二文字は、跡形もなく消え去ったのだ。
……しかし。
「……センパイ? ボクの脚ジッと見て、どうかしましたぁ?」
矢車は、素直ではない。
本心を隠し続けて、逆の言葉を口にする。
弱さを一切晒そうとせず、楽観的でいようと努めていることを……松葉瀬は、無意識のうちに気付いていた。
だからこそ、薄らぼんやりと気付いているのだ。
「見せてんのはテメェだろ」
松葉瀬はそう吐き捨てて、矢車の痣を指先で押す。
驚いたのか、矢車は一瞬だけ目を丸くした。
しかし、すぐに……。
「センパイったら、子供みたぁい。ボタンを見たらなんでも押したがる小学生ですかぁ? 好きな子虐めちゃう系男子ですかぁ? 体は大人、頭脳は幼稚園児ですねぇ? よっ、成人男子の恥ぃ~!」
愉快気に、笑った。
それでも、松葉瀬は矢車の痣を指で押す。
グリグリと押し続けると、矢車が唇を尖らせた。
「ちょっと、センパイ? さすがに痛いですぅ」
「痣を作ったテメェが悪い。黙って押されてろ」
「なんですかぁ、それぇ? 自分以外が原因でボクに傷ができたら、気になっちゃうんですかぁ?」
チープな煽りだ。すぐに、松葉瀬はそう感じた。
だが、矢車の性格を知っている松葉瀬は……。
「――素直に『心配してください』って言えたら、優しくしてやるよ」
――やはり、傲慢だった。
不遜な態度でそう言い、松葉瀬は口角を上げる。普段の優しい笑みではなく、対矢車専用の冷めた笑みだ。
――だが、松葉瀬が矢車の性格を理解しているように……。
「……どうしよっかなぁ?」
――矢車もまた、松葉瀬の性格を理解しているのだ。
矢車は、天邪鬼。素直じゃなくて、ツンデレを拗らせたような性格。それが、松葉瀬が抱く矢車への認識だ。
対して、松葉瀬は違う。矢車と比べると、松葉瀬は素直な男だった。
ゆえに、先ほどの言葉を……矢車はこう解釈したはずだ。
――『素直に甘えろ、馬鹿』と。
ここからは、意地の張り合いだ。
先行して、矢車が笑う。
「じゃあ、優しくさせてあげてもいいですよぉ? ホラ、ボクの頭でも撫でますぅ?」
「可愛くねェから却下。素直に『撫でてください』って言えたら、いくらでも撫でてやるよ」
「まるでボクが撫でられたがってるみたいな言い方ですねぇ? 今なら『セクハラです』って訴えないって言ってあげてるんですけどぉ?」
「なら、この話は終いだな。黙って脚でも開いてろ」
ほんの一瞬。
「……お好きにどうぞぉ?」
矢車が、眉を寄せた。
素直な言葉を紡がず、矢車は脚を開く。
笑みを浮かべてはいるが、どことなく不服そうだ。……松葉瀬にしか分からない、些細な違いだが。
そんな矢車を見下ろして、松葉瀬はわざとらしい溜め息を吐く。
「ハァ……。テメェ、マジでクソも可愛くねェな。道端で餌を運んでる蟻の方が撫でるに値するぞ、マジで」
「自分の手にそこまでの価値を見出してるセンパイ、純粋に気持ち悪ぅい」
「なら、金輪際テメェの頭は撫でねェわ」
そう言い、松葉瀬は矢車の脚に指を伸ばす。
――そして。
「――テメェの痣、今朝の会議が原因だろ」
つまらなさそうに、松葉瀬はそう呟いた。
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