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【スノードロップに触れられない ③ 間接的で直接的な戯れと本心(後編)】

◆ファンアート嬉しかった記念  松葉瀬は矢車の脚に指を添えて、興味無さげに呟く。 「会議に呼ばれて、慌てて上司を追いかけてただろ、テメェ。そん時、デスクにぶつかったのが原因だ。……あんだけ急いでたなら、忘れてても当然だろうがな」  キョトン、と。  矢車は大きな瞳を、さらに丸く、大きくしている。  どこか呆然としたような表情で、矢車はゆっくりと首を横に振った。 「……覚えて、ないです」 「だろうな。痛がる余裕もなかっただろ」 「そう、でしたっけ……」  松葉瀬が、痣をグリグリと指で押す。  そうされても、矢車は痛がる素振りを見せなかった。  ……むしろ。 「――ふぅん……。そうなんだぁ……っ?」  どこか、嬉しそうに笑っている。  矢車の笑みに気付き、松葉瀬は眉を寄せた。 「なんだよ、マゾビッチ。痣押されて悦んでるのかよ」 「違いますぅ。別になぁんにも嬉しくないですぅ」 「そうかよ。なら好都合だ」  それだけ言い、松葉瀬は矢車の脚を掴む。  逃がさないとでも言いたげに、固定をしたのだ。  訝しむ矢車を無視して、松葉瀬は矢車の脚に顔を寄せた。  ――そして。 「――いったぁっ!」  矢車が、大きな悲鳴を上げた。 「ウソ、えっ、痛いです、えっ? か、噛んで……ちょっと、センパイ……っ! いた、痛いですって!」 「黙ってろ、暴れんな」 「む、むり……っ! 痛い、痛いですって……うぅ、っ」  暴れ始めた矢車の脚を固定したまま、松葉瀬は矢車の脚に歯を立て続ける。  ――明確に、傷つける目的を持って。  『暴れるな』と言われた矢車は、懸命にシーツを握りしめた。矢車なりに、松葉瀬のオーダーをこなそうとしているのだろう。  ようやく咬みつきから解放された矢車が、自身の脚へ視線を落とす。  咬み痕が生まれた脚を見て、矢車はうっすらと涙目になりながら松葉瀬を睨むんだ。 「し、信じられない……っ。いたいけな恋人にこんな仕打ち……鬼です、悪魔ですぅ……っ」 「よし、セックスするぞ。脚閉じんじゃねェよザコビッチ」 「どう見てもそんなムードじゃないですよねぇ? ボクの脚見えてますぅ? 痣の隣にカワイソウな咬み痕できてるんですよぉ? ホラ、うっすら血が滲んじゃってます……っ! うぅぅ、酷い、酷すぎますぅ……っ!」  さめざめと泣き真似をする矢車を、松葉瀬はどこか楽し気に見下ろす。  まさに、ご満悦と言いたげな顔だ。 「俺の許可もなく勝手に傷を作ったテメェが悪ィんだよ。誰のものかっつゥ自覚を持て、ドアホ」 「えっ、コレってもしかして独占欲の表れですかぁ? デスクにヤキモチってことですかぁ? うわぁ、ボクって愛されて……いや、ちょっとカバーしきれません! 痛いですぅ!」 「キャンキャンピィピィうるせェなァ……」  大袈裟なほど落ち込む矢車は、そのままベッドの上で丸くなった。  両手で顔を隠して、落ち込んでいることをアピールするように「すんすんっ」と、泣き真似も継続。  縮こまった矢車を眺めて、愉快気に松葉瀬は笑う。 「なんだよ、怒ってんのか? 俺に咬まれて嬉しいだろォが」 「イ、イカれてますぅ……っ! ボクのセンパイ、頭おかしいですぅ……っ!」 「ジメジメしやがって、めんどくせェな……」  不意に。 「――菊臣」  松葉瀬が、矢車の名前を呼んだ。  恐る恐る、矢車は顔を上げる。  そして……。 「――陸真センパイ、大嫌いです」  そう呟いた後。  ――矢車は【両腕を広げた松葉瀬】に、遠慮がちに抱き着いた。 「痛いです。すっごく痛いです」 「あぁ、そうだな。もとはと言えば、鈍くせェテメェが悪いな」 「センパイなんか嫌いです。素直にボクを甘やかせないセンパイなんか、大嫌いです」 「あぁ、そうだな。素直じゃねェ後輩に愛されすぎて困ったもんだ」  背中を撫でられ、矢車は松葉瀬の胸に額を押し当てる。  矢車は、素直ではない。『心配してほしい』と思っても、本心を茶化してしまうほどの生粋ぶりだ。  そんな矢車を甘やかすには、矜持や恥よりもさらに強い感情を与えるしかない。  ――それこそが、松葉瀬なりの愛情。  ――いくら歪だろうと、松葉瀬にとっては最大限の譲歩だった。 「次からはもっと余裕持って行動しろ。じゃねェと、今度は刃物で刺すぞ。……分かったか、馬鹿」 「分かんないです」 「……ハァ。マジで可愛くねェ」  そう呟き、松葉瀬は背に回していた手を動かす。  ――そのまま、矢車の頭へ手を添えた。  そこまでされてついに、矢車は頬を赤く染めたのだが……。  松葉瀬は当然、気付いていながら閉口した。 【スノードロップに触れられないオマケSS:間接的で直接的な戯れと本心】 了

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