27 / 31
【半歩ずつ踏み込もう ③ 相手を騙さないと出られない部屋(前編)】
◆突発的に思いついたネタです
【キャラ紹介】
*相田 雨太郎
圧倒的優等生系高校生。マニュアル人間。
同級生の傘野に告白されてから、携帯小説というジャンルの本で恋愛を勉強中。
……だが、文体があまり好きではないらしい。
*傘野 雷
感情論でしか物事を話せない系高校生。思っていることは割と顔に出る。
無表情な相田が本を読んでいるとときたま眉間に皺を寄せている姿に、なぜだかキュンとくるらしい。
相田と傘野は、絶賛。
「「『相手を騙さないと出られない部屋』?」」
――動揺していた。
ふと、目が覚めたとき。
二人はなぜか、なにもない小さな部屋に閉じ込められていた。
互いに視線を重ね、そのまま出口らしき方向へ視線を向けたのは、ほぼ同時。
そして、先ほどの台詞に繋がった。
閉口してしまった相田をチラリと眺めて、傘野は内心で叫ぶ。
(な、ななッ、なんだよこの展開! 普通こういうのって、もっとエッチなお題じゃないのかッ? キスとか、それ以上とか……ッ。あぁァ、でもでも相田とそういうことするのはハードルが高いっつーか、もっといい感じのムードがいいって言うか……!)
困惑と、動揺と。
嬉しさと、ガッカリ。
傘野は心の中で、ドッタンバッタンと暴れ回る。
……対して、相田はと言うと。
(こんなことを自分たちに仕組んで……どういった生産性と有用性、並びに有益性が発生する? 理由として想定できる可能性は『学生が咄嗟に思いつく騙し方』のサンプリング、といったところか……。ネットでは年齢を詐称して回答する輩もいるかもしれないという観点から考えると、こうして確実に学生を追い込む方が確かな情報源となるが……。どういった理由にせよ、強硬手段すぎる。発案者は度し難い人間なのだろうか)
相田なりに、動揺していた。
しかし、二人は共通して気付いている点がある。
――それは、今この場にいるパートナーを【騙さなくてはいけない】ということ。
(相田を騙すのは、すっごく難しいぞ……。だって、相田の方がオレより知ってること多いし……中途半端なウソ吐いたって、相田だったらすぐ分かっちゃうよな……)
傘野にとっては、圧倒的に不利な状況。
それでも、傘野は懸命に頭をひねる。
それはひとえに……自分のせいで、相田をこの部屋に閉じ込めたままにはできないからだ。
(難しいお題だけど、任せとけ……! オレが絶対に助けてやるからな、相田……!)
対して、相田も相田で悩んでいた。
(この実験に、果たしてどれほどの可能性があるかは計りかねるが……【人を騙す】という行為を進んで行うのは、気が引ける)
きっと、傘野は相田がなにを言っても信じるだろう。そんな確信が、相田にはあった。
だからこそ、相田は考えるのだ。
――できるだけ【傘野が傷つかない嘘】を。
二人が熟考すること、数分。
先に口を開いたのは……。
「――知っているか、傘野」
――相田だった。
名前を呼ばれた傘野は、勢い良く相田を振り返る。
……それは、単純に『相田に名前を呼ばれたから』という、浮かれた気持ちが原動力だ。
そんなことには、当然気付かず。
――相田は、口を開く。
「――カリフラワーは【ブロッコリーの雌個体】だ」
相田は考えた。
そして、辿り着く。
――カリフラワーが雌だろうと雄だろうと、食べてしまえば同じ。
――つまり、カリフラワーの性別など今後生きていく上で果てしなくどうでもいい、と。
傘野が傷つかず、尚且つ一瞬でも信じたところでなんの損もない嘘。
相田の嘘は、とても平和的なものだ。
――しかし。
――二人の間に、波乱が巻き起こった。
「――えっ、知ってるけど……?」
珍しく。
二人は、似たような表情を浮かべてしまった。
ともだちにシェアしよう!