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第3話
十分くらいは待ったと思う。いつまでも出てこない男性が心配になり、俺はトイレへと戻った。まだ電車は来ないし、二人きりのホームは相変わらず静かだ。
「おーい、生きてますか?」
コンコンと扉を二回ノックした。それに驚いたのか中からガタンと大きな音がして、無事は確認できた。
「まさか、このままトイレにこもっていればそのうち電車が来て俺がいなくなるとでも思ったの? 残念ながらまだ電車は来ていないし、痴漢されているのを見てしまった後にあんたを置いていけるかよ」
恥ずかしい気持ちも多少は分かるけれど、俺だってずっと心配していたくはないし、全て終わってさよならしたい。
そう言葉を続けると、グズグズ鼻を啜る音が聞こえた。
「勝手で申し訳ないんですけどね、まぁ助けたわけだしそこは俺の言うこと聞いてやってください」
「……っ、」
「で、処理は終わりました? 終わったなら出てきて。一緒に次の電車を待ちましょう」
コンコンと、再びノックする。すると、ゆっくり鍵が開けられる音がして、少し引かれた扉の奥から男性が顔を覗かせた。
「……まだ、何も、」
「え?」
「何も、してない……」
「は?」
それだけ言って閉められようとした扉に、ギリギリのところで手を入れた。軽く挟まれてしまい痛かったけれど、痛がる間もなく扉をこじ開ける。ひぃっと怯える男性をさらに怖がらせるだろうなとは思ったけれど、俺もトイレの個室の中に入り、鍵を締め扉を塞いだ。
膝までは下げられているズボンに、染みのできている下着。思いっきり触れば良かったものを、布越しに中途半端に触っただけなのだろう、起きあがったままだ。全くこれをどうするつもりだったのか。
「普段はオナニーやらないんですか? ってかそれなりの歳で経験だってあるだろうし、今さら自分の勃ったソレで驚くの?」
「やらない、わけじゃ……」
「だったら早く楽になった方がいいって」
「ち、痴漢されて、勃ってしまったこれを、そう簡単に処理できるわけない……! 気持ち悪いし、それに君に見られたわけで、ここで抜いて、それで治まったとしてもどんな顔をして、また君の前に戻ればいいんだよ……。恥ずかしくて、情けなくてたまらない……!」
隠すところは隠さないで、顔だけ覆うその男性に何とも言えない感情が湧く。年上の男性に可愛いだなんて、この状況で頭がおかしくなったのだろうか。
「俺だって恥ずかしいですよ。知らない人の勃ったちんこ見てるんだから。でも仕方ないじゃあないですか。あんたを今ここに置いてはいけないし、置いて行けって言われて置いて行ったりなんかしたら俺はずっとあんたを気にしてしまうだろうし、明日の電車の中であんたを探しちゃうかもしれない。できるならこれっきりにしたいでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「だったら早く抜いてしまおうよ。さすがにあと数分したら電車も来るはず。会社に遅刻はヤバいでしょ? 俺も遅刻したくない」
狭い室内にトイレ独特の臭い。はっきり言って居心地は良くなく、とりあえず早くどうにかしてしまいたい。この男性に対して嫌悪感は湧かないし、ためらうことなく触れられる気がした。
「触りますね」
「うっ、」
下着越しに触って染みを大きくしてしまえば、新しい下着が必要になる。それは困るだろうと、俺は震える男性の下着を一気に下ろした。形の良いペニスがぶるりと顔を出す。男性は悲鳴に近い声を漏らし、頭を抱えた。座り込みそうになるその体を支え、優しくそれを握った。
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