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憑かれ男子 02
さ迷える霊魂がこうやって俺の後ろを憑いて来るのは、たいていは何かを俺に伝えようとしている時だ。もしかしたらこの元イケメンは、この世に何らかの未練を残しているのかも知れない。
「なあ、お前、うちの学生なの?」
トイレで一人になったのを見計らい、俺は元イケメンに聞いてみた。
『…………』
言葉にさえしなかったけど、元イケメンは小さくこくりと頷いた。
「何か俺に言いたいことでもあんの?」
続けてそう聞いてみると、今度もこくりと一回、首を縦に振る。もしかして、元イケメンは喋れないんだろうか。一般的な霊は俺の心に直接話し掛けて来るが、元イケメンはそれもない。
「どうやって死んだか聞いていい?」
こくり。
「殺された?」
ぶんぶん。
「じゃあ、やっぱ事故なんだ」
こくこく。
何度かそんなやり取りを繰り返すと、彼が事故死したことがわかった。自分が事故死したことを自覚していると言うことは……、
「もしかして、この世にやり残したことがある?」
そう聞いてみると、元イケメンは大きく一回、頷いた。
やっぱそうかと思いつつ、俺は元イケメンのことを考えてみる。そう言えば元イケメンは最初からあの教室にいたわけじゃなくて、途中から俺の前に姿を現した。
「もしかして、俺が幽霊と交信出来るから俺の前に現れた?」
これもこくりと一回、頷いて見せる。
「じゃあ、事故現場はあの教室じゃないんだ?」
こくり。(うん)
「あのさ、よかったらそこに案内してくれる?」
こくこく。(いいよ)
そうして今度は、元イケメンの後を俺が着いて行くことになったのだった。
俺だけにしか見えない、華奢に見えて案外がっしりした背中を追う。この大学に入学して一週間が経ったけど、元イケメンが俺の前に初めて姿を現したのは三日前のことだ。
今思い返すと、あの教室以外で姿を現すことはなかったけど、俺はいつも身近に彼の気配を感じていた。
幾分か涼しくなった風が頬を撫でる。一般的に幽霊が現れるのは夜とされているが、実は昼間にも普通に見えていたりする。
人波に紛れて交差点を堂々と歩いていたり、ベンチに座って辺りをぼんやり眺めていたり。普通の人にはそれが見えないだけで、俺にはゾンビ映画に出て来るゾンビのように見えている。
たまに生きてる人と間違えて、ぶつかってしまったそれに謝ったりもして。彼の後を追うこと十数分、
「ここ?」
こっくり。(そう)
元イケメンの事故現場は、カウンセリングルームに続く階段下の踊り場だった。
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