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憑かれ男子 10

「拓海先輩。俺ね、霊感が強いのか、幽霊が見えたり霊に取り憑かれたりするんだけど」 「うん」  その間も正面から抱きしめられたままで、俺は先輩の肩に顎を乗せてみる。 「玲先輩が俺の前に現れたのは三日ぐらい前で、最初は先輩が現れた教室の自縛霊だと思ったんっすよ。けど違くて。恐らく先輩は俺が霊感が強いことに気付いて、俺の前に姿を現すようになったんです」  静かに俺が言うことを聞いてくれる拓海先輩の手が、何故だか俺の頬に掛かった。 「玲先輩、どんな格好をしてたと思います?」 「あの日は確か……、グレーのパーカーか?」 「うん。そんでですね。そのパーカーが少し薄汚れてたし、口の端が裂けてたから、最初は屋上かどっかから飛び降り自殺を計った学生の霊だと思ったんです」 「口が裂けてた?」 「はい。赤黒い血がそこからだらだら流れ出てて」  恐らくは、階段から転落した先輩に目立った外傷はなかったはずだ。玲先輩は不運にも頭の打ち所が悪かったために、そのまま死んでしまったと考えられる。 「それってね。今になっては玲先輩のその時の気持ちだと思うんです」 「その時の気持ち?」 「はい。事故に遭って自分が死んだことはわかってたけど、その時の先輩は、どうしようもなく途方に暮れてたと思うんですよ」  それが表れていたから、酷い交通事故に遭ったようなビジュアルだったんだろう。今でも思い出す。初めて玲先輩を見た日のことを。  それから小一時間後、 「それじゃ、俺はこれで」 「ああ。ありがとな」 「いえ、俺は何も。お邪魔しました」  拓海先輩にシャワーを借りて、しっかり後始末をしてマンションを出た。 「おい、加藤」 「わっ、びっくりした! ……って、拓海先輩?」 「お前んちどこ? もう遅いから送るよ」 「大学近くのボロアパートだから大丈夫っすよ? 近いから」 「いや、アパートまで送る。送らせてくれ」 「そうですか……? それじゃお願いします」 「ああ」  拓海先輩に送って貰った帰り道。なんとなく夜空を見上げたら、爪切りで切り落とした爪のように細い三日月が夜空にぽっかり浮かんでいた。 2015/08/02//完結

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