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第3章 二人の未来 【7】ボクの夢
あの日からボクの寝室は、毎日オーディンからのプレゼントであふれている。
色とりどりのお菓子、珍しいフルーツの盛り合わせ、たくさんのぬいぐるみ。
外に出す気もないくせにブランドもののカバンや財布、洋服まで所狭しと並べられている。
よっぽどはずせない仕事の時以外ずっとオーディンはボクから離れなかった。
愛してるって言ってるのに、まだどこか不安なようだ。
温暖なシアーズだが夕暮れになると涼やかな心地よい風が吹き樹々を揺らす。
西の空は赤紫に染まり、暗闇に染まるまでの少しの時間 幻想的な雰囲気を醸し出していた。
エーリス王族のシルファ製の長衣に身を包み、バルコニーのソファに座るオーディンの元に歩み寄る。
目の前に立つボクを見てオーディンが瞠目する。
「オーディン最後までボクの話を聞いてほしいんだ」
そういうとオーディンはボクの手を取り、隣に座らせ心配そうに顔を覗き込んだ。
ウッスラと現れた月を見上げオーディンの目を見ないように、ボクはその手を恋人つなぎで指をギュッとからませた。
「ボクにはずっと帰りたい場所があるんだけど、ソコに帰るには王にならないと帰れないんだ。 だから結婚の話を聞いた時、断っちゃったんだけど…」
王にならないと帰れない場所ってどこなんだ?とも聞きもせず、オーディンはボクの横顔を見つめ次の言葉を待っている。
「エーリスにいる頃はさ、なんの疑問ももたず、ただ王になる日をノンビリ待ってただけだった」
勉強も程々に、楽しいことだけして唯一の跡取りとしてチヤホヤされてたボク。
「でもシアーズに来て、考えが徐々に変わったんだ。」
シアーズの豊かな生活、比べ物にならないほどの科学技術、生産能力、政治力。
それらの礎には人々の努力と、それを導く統治者の能力があってこそだということを。
若くから勉学に励み、飛び級して卒業し、政治も学び15歳にして既にシアーズになくてはならない存在になっているオーディン。
それに比べて『王になってさっさと現世に戻る』ことしか考えてなかった自分を恥た。
この世界での人生を真面目に送り、王にならなくともエーリスの発展を考えたいとシアーズに来たことで考えが変われた。
「この留学中にボクにできることをしたいんだ、エーリスの発展につながることを…」
つないだ手にもう片方の手を重ね、オーディンのきれいな青い目を見つめお願いをした。
「結婚は…5年とは言わない、あと3年待ってほしい
その間にシアーズとオーディンの力を借りて、エーリスを一歩でも先進国に近づけられるよう産業革命を起こしたい。
シアーズに来たことで、エーリスを先進国と同様に産業で豊かにするという夢ができたんだ。
だから…ボクの夢を現実にするお手伝いをしてください」
オーディンがもう片方の手を重ねてくる。
お互いの両手を握りしめながら、どちらからともなく唇と重ねた。
静かな夕暮れ、かすかな虫の音が聞こえる。
オーディンはそっと唇を離すとコツンとおでこをくっつけた。
「3年か…長いな」頬をふくれさせ文句げに言うオーディンだけど目が嬉しそうに笑ってた。
「だったら早くボクの夢を叶えて?」甘えるように首に手を回すと
「おおせのままに」 と力強く抱きしめてくれた。
これで王になって現世に帰れるという希望はなくなった。
現世の家族、未来のお嫁ちゃま、子どもたち…ごめんなさい。
実際この世界に来てから1度も神は姿を現さなかったし、王になったとて現世に帰れる保障はないわけで…
だったら愛するオーディンがいて、幸せにしたい民がいるこの世界での人生をボクは選びます。
「一生離さない、私だけを愛してくれ…私の愛もシルヴィお前だけだ」
「もう…わかってるから!甘い言葉はもーお腹いっぱいだから!」
「私は足りない…もっと言ってくれ?」
「………愛してる」
「誰を?」
「オーディンを」
「もっと…」
超絶イケメンにとろけそうな顔でそんな事言われると心臓がドクドクいっちゃう。
こんな顔ボクしか見れないんだなって、嬉しくて幸せすぎて…
王様になれなくていい、この世界で一生この人と
「死ぬまで一緒だよ、愛してるオーディン」
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