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第8話

浴場からの水の流れる音が一切消え、シンとした物静かな雰囲気に包まれる。遠くから琴の音が流れ、館内の時はまるで止まったかのようにゆっくりとしているが、それとは逆に、大和は己の全身を包むヒンヤリとした空気に突如として恐怖を感じた。 羽織を被され視界は暗いが、パタパタと別のスリッパの音が耳に入ったのだ。 他の客がいる。しかも一人ではない。 自分は息も荒く、きっと顔も赤いままだ。髪もろくすっぽ乾かしていないから、頭から被ったタオルも濡れて、髪の毛の先から雫が数滴ポタポタと廊下に滴り落ちている。 すれ違う際に何か言われたら? この状態が誰か他の客にバレてしまったら? 気が気ではない。 「はぁ、はぁ」」 こんなに廊下は長かったか。 エレベーターまであとどれぐらいなのか。 どうして佐賀島は何も言わない。 いや、何も言わなくていい。 ―――― 早く、早く……っ 到着まで待つ時間でさえ永遠に感じられる。 ―――― もう、ダメ……もう、限、界…… チンと高い音が鳴り渡り、扉が開いてエレベーターが到着した。 乗り込んだ瞬間、佐賀島に抱き寄せられた。 背後でゆっくりと扉が閉まる。 「んんっ」 尻朶を両手で鷲掴まれ、激しく揉まれると、中に填め込まれたヒノキのボールが大和の内壁を掻き混ぜる。動き出したエレベーターの低いモーター音と共に、グリュグリュッとしたくぐもった音が辺りに響き渡った。 「ひはっ、ふ、んぅううっ」 堪らず大和は佐賀島の身体に自ら腕を回し、大腿部に当たる佐賀島の硬い太股に尖端を擦りつけた。 竿を激しく上下させると、トロトロと溢れ出る大和の先走りは大量の愛液となって大和自身を濡らし、佐賀島の浴衣を滲ませる。 「んっ、んんっっ、ぃっ、ンィいっ」 息を紡ぐように大和は顔を上げ、佐賀島を見つめた。エレベータの照明が逆光で、佐賀島の表情をよく分からない物にしている。 「ん、さが、島っ、佐賀島ァ…っ」 口を大きく開けたまま、突き出した舌で求めるように切ない声で名を呼ぶと、スッとその顔が近づいて、鼻先が触れようとした。 瞬間、 四角い箱はチンと軽く高い音を響かせて止まり、大和の背後の扉がゆっくりと開いた。 「こんばんは」 「…っ!」 佐賀島の低い声に、大和は現実に引き戻された。ギュッと佐賀島の羽織を握る。 「こんばんは」 大和の背後に立つ人物が俄に蠢いたのを感じる。会釈でもしたのだろうか、衣擦れの音がする。 「何階ですか?」 「あ、8階です」 言い終えて同客は大和達に背を向け、扉付近に立った。 佐賀島は真下で硬直する大和を見つめ目を細めた。 先ほどまで見せていたあられもない姿など微塵もない。顔なんて青ざめてすらいる。 低く嗤うと佐賀島は大和の尻を再び揉み込み始めた。 「っ!」 声を殺した大和がハッと佐賀島を見上げ、首を左右に振った。 だが佐賀島は手を止めず、寧ろ先ほどより激しく臀部を掴み上げると小刻みに上下に揺すり始めた。 あり得ないと、大和が目を見張る。 その顔がまた佐賀島の嗜虐的な心を煽り、大和の身体ごと上下に揺すった。 「ふんんっっ」 濡れた股座に、大和の勃起したペニスが佐賀島の太股に挟まれ擦られ刺激される。 止めろと足を閉じようとしても逃れられず、大和は激しく首を横に振った。だが猶も佐賀島は大和を刺激し続け、あろう事か大和の両尻左右に割り開く。 大和はギュッと目を瞑った。 ぐちゃ、と粘りを帯びた音が鳴った刹那。 コンっと甲高い音を立てて何かがエレベーターの床に転がった。 大和の背後に背を向けて立っていた人物が、何かと音のした方を向く。 コロコロと床を転がるそれは、大浴場の露天風呂に張り巡らせていたヒノキのボールだ。 濡れて妖しく光るそれが、無機質な箱の隅に転がっていく。 「おやおや、こんな物を持って来てしまったのですか?子供みたいですね」 ダメじゃないですかと佐賀島が拾い上げ、振り返って見つめていた客に口端を上げて応えた。 「1つだけ持って来ても何も役には立ちませんよ?」 チンとまた軽い音が鳴り響く。静かにエレベータの扉が開くと、客はにっこりと会釈してその場を去っていた。 「はっ、はぁっ…はぁっ」 まるでその間一呼吸もしていないかのように大和が荒い息を吐く。 「ふふっ、大和さん、よく我慢しましたね」 ご褒美ですよと佐賀島は口を開けて息を紡ぐ大和の唇に貪り着いた。 「んっ!んぅっ!!」 揶揄も怒号も何もかも押し込められ、大和が佐賀島の抱きしめる背中を叩く。 ドンドンと低く鳴り響く箱の中で、チンとまた音が鳴ると、佐賀島は呻く大和の身体を抱えるようにしてエレベーターから降りると、長い足で廊下を闊歩した。 「佐賀島ッ!テメェ!!」」

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