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「……、何から訊きたい?」
「………あー……と…」
職員室に寄ったあと、俺は委員長に付いて地学準備室に来ていた。
この前ここで見たことを思い出してしまうので、あまり来たくはなかったのだが。
訊きたいことって言われても…
俺は取り敢えず、なるべく当たり障り無さそうなものから訊くことにした。
「委員長…さ、煙草、吸うんだな。」
「うん。何もないと口寂しくて。ガムとか飴の時もあるけどね。意外?」
乱雑に置かれた机に委員長が腰掛ける。
俺も少し離れた机に腰を下ろした。
「まぁ…真面目そうだったし、ちょっとな。」
「まぁそうだよね。他には?」
じっ…と見つめてくる委員長の視線で、居心地が悪い。
俺は少し委員長から視線を反らしてできるだけ平常心を装って答えた。
「あー…、冨田先生、とは…えっと、」
「…付き合ってないよ。」
「え、…そうなの?」
「うん。」
平然と答える委員長。
それに反して俺はどんどん鼓動が速くなっていく。
「じ、じゃあ、なんで…」
「キスしてたか?」
「……」
「なんでだと思う?」
なんでって……付き合って無いんだとしたら…そんなの……
「……、セフレ…?」
「…うん。セックスするだけの関係。」
ドクン ッ……
教師と生徒だとか、男同士だとかそんな事よりも、委員長の口から堂々とセフレがいるなんて言葉が出てきたことが信じられなくて、俺は身体の動きが止まった。
委員長の顔が見られない。
「あの後ね…えっちしたよ。」
「ッ…!!!」
いつの間に横に来たのか、委員長の声が耳元で響いた。
「…っ、そんなこと、訊いてない。」
「でも、気になってたんでしょ?だから俺に付いてきた。」
段々と距離を詰めてくる。
なんとか離れようと足を動かすが、すぐに机にぶつかってしまった。
少し後退った俺に、更に委員長の顔が近付く。
「蒼井君って、ムッツリでしょ。」
「ッな……に、」
羞恥と何かよく分からない焦りから、カッと一気に顔に熱が集まる。
なんで、どうしてこうなった。
「ねぇ、あれ見て興奮した…?してない…?帰ってから抜いた?……俺で想像した?」
ガタンッ!!!
後ろでぶつかった机が耳障りな音を立てる。
今のこの状況に脳の理解が追い付かない。
「いやッ、まっ、なに?!なんなのお前ッ///////」
「ふっ…カワイイ…、俺君のこと気に入っちゃった。ね…、君は?俺と…シたくない?」
「ちょっ、ほんと待ってッ!!!////////」
あぁ。本当に、どうしてこうなったんだ…
あと少しで唇が触れる。
そう思ったとき。
「碧。」
「あれ?先生、職員会議は?」
「…っ、と、みた…先生……」
ガラッとドアが開かれ、姿を表したのは汚れた白衣に眼鏡を掛けた地学の先生。
冨田先生は少し困った顔をしながらこっちにスタスタ近付くと、委員長を俺から引き離してくれた。
「今日は早く終わった。…まったく、いたいけな少年に手を出すんじゃないよ。」
「まだ出してないよ?」
「だから出すなよっつってんの。」
冨田先生はそう言って委員長にひとつデコピンをした。
これで性癖が歪んだら可哀想だろ。えぇ?俺は?お前はもとから歪んでる。なら先生もじゃん。
「だから俺で我慢しとけ。」
言いながら委員長のこめかみにキスを1つ。
いやいや、俺居るんですけど。
呆然とその様子を眺めていると、ふと冨田先生と目が合った。
先生から俺に手が伸ばされ咄嗟に身構える。
ぽんぽんっ。
「……ぇ?」
頭を撫でられ、思わずキョトンとする。
「悪いな。色々ビックリしただろ。」
「ぁ…いや、まぁ……。」
本当に申し訳なさそうな顔をする先生に、されるがまま頭を撫でられる。
なんだかこの間の事を見てしまったことに罪悪感を感じてしまう。
「あぁそうだ。これやるよ。」
そう言って先生が取り出したのは棒尽きキャンディのイチゴミルク。
思わず受け取ってしまったが、…何故?
「今それしかないんだ。悪いけど、今回のことはそれで勘弁な。」
バレると俺マズいんだわ。
あぁなるほど。口止め料か、これ。
俺にはくれないの?と二重の意味で絡む委員長をいなしながら、最後にもう一度先生が俺の頭をなで、「さ、これ以上巻き込まれんの嫌だろ。お前はもう帰りな。」と俺を準備室から追い出した。
「……………。」
1人通学路を歩く。
考えないようにしようとしつつも、つい、俺はさっきの出来事を思い出してしまっていた。
委員長…あんな感じだったのか……
間近に迫った委員長の顔。
色白な肌が陽の光でオレンジ色に染まり、こっちを見つめる眼の縁取りは、近くで見ると思ったよりも長かった。
まだ少し、信じられない。
あと数秒先生が来るのが遅れていたら…
うっすらと笑みを浮かべた薄い唇が頭をよぎる。
「………っ////////」
あれ?俺、ちょっと残念とか思ってないか…?
いや、いやいやいや…、そんな…………、
「……俺、ムッツリなのかな………。」
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