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03※
なぜ、こんなことになっているのだろうか。
せっかくあいつから逃げられたと思ったのに、これでは何も変わっていないではいか。
「ユウキ君さぁ、芳川にデートに誘われたんだって?」
剥き出しになった腹部を撫でていた阿賀松の手が、ゆっくりと這い上がっていく。
こそばゆさよりも恐怖が勝り、全身が岩のように固くなっていって。
「デート……?」
「教室にまで押し掛けて誘われたんだろ」
もしかして、休み時間にやってきた会長のことを行っているのだろうか。
どうしてこの男が知っているのか、ということよりもなんでそんなことを聞いてくるのかが分からなくて。
「なんて誘われたんだ?」
「……っなんで、そんなこと……」
「質問に答えろよ」
ぎゅっと直に乳首を摘まれ、針を刺すような鋭い痛みに堪らず目を見開いた。辛うじて声は抑えれたが、それ以上に感じたことのない痛みに頭の中が真っ白になる。
「か、いちょ……には、校内案内を……するから……って、言われて……」
「そんで、断ったのか?」
こくりと頷けば、「なんでだよ」と更に阿賀松に尋ねられる。
少しでも口籠れば、突起に触れる指先に先程の痛みが蘇り、慌てて俺は「あの」と口を開いた。
「クラスメイトが、もう、案内してくれたんで、それで……断って……」
これ以上痛い思いをしたくない一心で俺は答えた。
その時のことは阿賀松も見ているはずだ。少しだけ考え込む阿賀松。やつが何を考えているかなんてんからないが、それでも痛みがやってこないことに安堵する。
「随分と気に入られてんじゃねえの、お前」
「……っ」
「気に入らねえなぁ……」
それは誰に対して向けた言葉なのか俺には分からなかったが、薄暗い瞳に腹の奥底がぞくりと疼くのを感じた。
阿賀松の手が、顎先に触れる。乱暴に上を向かされれば、至近距離で阿賀松と視線がぶつかった。
「なぁ、ユウキ君。もしさぁ、お気に入りのお前が俺にヤラれちゃったらあいつ、どんな顔をすると思う?」
「……は?」
「あのスカした顔ぐしゃぐしゃにしてキレるかなぁ、それとも、『どうでもいい』ってスカしたままか。……試してみねえ?」
「な、何……言って……」
まるで、この男の言葉が理解できなかった。
なんで笑っているのかも、なんで、俺が阿賀松にキスさ!ているのかも、全部理解できなかった。理解したくなかった。
「っ、ふ、ぅ、んん……っ!」
塞ぐように乱暴に重ねられた唇。阿賀松の口ピアスがキスの度に擦れ合い、嫌な感触に余計全身に力が篭った。
息苦しさのあまり、開いた唇の隙間から阿賀松の奥が咥内へと滑り込んでくる。
ぐちゅぐちゅと粘膜を擦り上げれれば感じたことのない感覚に下腹部に力が入り、動けなくなった。
「っ、ぅ、うぅ……ッ」
別に、キスは初恋の人と、なんて淡い夢を抱いていたわけではない。けれど、ろくに知らない、それもこんな男にキスされるなんて思ってもいなかっただけに余計ショックはでかくて。そんなこと考えてる場合ではないと思っていても、現実逃避をせざるを得なかった。
歯列をなぞり、舌の根本を擦られる。舌先のピアスが掠める度にその特有のひんやりとした感触にぞくぞくと背筋が震え、咄嗟に引っ込めた舌を阿賀松の舌に絡め取られてしまう。
「っ、ん、んんんッ」
音を立て、根本から舌先を吸い上げれた瞬間、ずんと腰に衝撃が走った。
このままでは、まずい。
酸素までも吸い上げられ、次第に朦朧となっていく頭の中、阿賀松から逃げようと後ずされば腰を抱き寄せられた。下腹部同士が密着し、腹部に嫌に硬い感触が押し付けられる。
「………ぅ、え……?」
恐る恐る視線を下腹部に向ければ、そこには勃起した下腹部が押し当てられていて、全身の血の気が引いた。
どうして勃起してるのか、この男は。
ちゅぽんと音を立て舌を引き抜いた阿賀松は唾液で濡れた俺の唇を舐め、笑う。
「どうしたんだよ、んなアホみたいな顔をして」
「っだって、どうして……」
「言っただろ? 今からテメェを犯すって」
ドクリと、心臓が大きく脈打った。
目の前が真っ白になって、汗が止まらなくて、喉が乾く。
「お、かす、って」
「ユウキ君のケツの穴に俺のチンポを嵌めるってこと。そんなことも知らねえのかよ、お前」
便器の上、座らせられそうになり、慌てて立ち上がろうとする。
けれど、膝裏を掴まれ、体全体を押さえ付けられてしまえばまるで身動きが取れなくなってしまう。
「っ、や、めて下さい……ッ!」
「やめて下さいでやめてやるほどの聖人君子に見えるのかよ、俺が」
ベルトを緩められ、スラックスを脱がされる。下半身が下着一枚になってしまい、人前でこんなみっともない姿を晒してしまったことが何より恥ずかしくて、阿賀松の顔をろくに見ることも出来なくて。
「……よっと」
それなのに、問答無用で俺の足を自分の肩に引っ掛ける阿賀松になんだかもう生きた心地がしなかった。強引に開脚されるようなこの体勢にも、だ。
「ッ、嫌だ……先輩……ッ」
「あぁ……いいな、それ、もっと言ってくれよ。『先輩』って」
「何、言って……ぇ……ッ」
剥き出しになった下腹部、腿を撫でていた阿賀松の指が下着の裾を捲るのが目につき、堪らず声を漏らしてしまう。
骨ばった指が薄い布の下で蠢くのは中々酷なもので、目をぎゅっと瞑った瞬間、肛門に指先が触れる。
「ぁ……ッ」
唾液で濡れた阿賀松の指先が窄まったそこを擽っただけで全身がびくりと震えた。
怖い、怖い怖い怖い。声を上げたいのに、喉元まで出かかった声は吐息となって消える。
「ぁ、ッぎ」
そして、ずぷりと挿入される指先に皮膚を突き破るような痛みが走った。
唾液で滑り、奥まで入り込んでくる指。その関節の凹凸が内部を掠める度に引っ張られるような感覚が襲いかかり、息が詰まりそうになった。
「痛……ぁ、や、……抜い……て、抜いて下さい……ッ
「嫌だ」
「ぁっ、あ、あぁ……ッ!!」
二本目の指が力づくで肛門を抉じ開け、深く突き刺さる。
痛い、というよりも苦しいといった方が適切かもしれない。腹の中を圧迫する異物感に息が苦しくなり、内壁を擦られる度に避けるような痛みで発狂しそうだった。
「ごめ、んなさい……っごめんなさい……ッ!」
「おいおい、これくらいで弱音吐いてどうすんだよ。これからこれ入れなきゃなんねーってのに」
手を取られたと思いきや、阿賀松の下腹部へと手を引き寄せられる。指先に布越しの硬い感触に触れ、恐怖のあまりに目の前が真っ暗になった。
「嫌だ……っ、も、抜い……っ」
「うるせぇ、ちょっとは頑張れよ」
「っ、は、ぁ……ッ?!」
三本目の指が追加される。中を解し、押し広げるようにバラバラに動き始めるそれに乾いた内壁は引っ張られ、どっかが切れるような音がした。
そして、焼けるように熱くなる体内、阿賀松の指が滑り始めるのが分かった。
「っ、お前、まじで初めてなんだ……こりゃ、少しは楽しめそうだな」
指が引き抜かれたかと思えば、真っ赤に染まったその指を口に捩じ込まれる。
瞬間、咥内いっぱいに広がる鉄の味に吐き気が込み上げてくる。
「……ぅ、うぇ……ッ」
「舐めろよ、痛いのはやなんだろ?」
「……ッ」
どうして、どうしてこうなったのだろうか。
いつの間にかに涙で濡れた頬を拭うことも出来ぬまま、何を考えることも出来ずにただ俺は言われるがままに汚れた阿賀松の指に舌を絡めた。
「……っ、ふ、ぐ……ッ」
「ユウキ君は美味そうにしゃぶるなぁ」
「俺の指はそんなにうまいか?」と、舌を擦られ、嗚咽が溢れる。
それが嫌で、必死に首を横に振るが、興奮したように頬を微かに紅潮させた阿賀松は執拗に俺の舌先を指で嬲ってきて、まるで愛撫するかのような下品な手つきに応えるよう唾液が滲み、開きっぱなしになった唇から溢れる。
「……っ、ひっでぇ顔だな」
舌から指を離した阿賀松は再度肛門に指を挿入し、たっぷりと濡らしたそれで乱暴に中を擦り上げてくる。
先程まで痛かっただけのその挿入に、痛みで敏感になったそこは悲鳴をあげた。
「っ、ぁ、ひ、っや、せんぱ……っ先輩……ッ!」
痛い、痛い、痛い。焼けるように疼く内壁が阿賀松の指に痙攣を起こし、阿賀松が指を曲げれば大きく腰が揺れ動いた。
「っ、ぁ、あ、ぁあ……っ」
やめてほしいのに、俺が嫌だと口にすればするほどそれに反するように指の動きは激しさを増す。
頭の中でチカチカと火花が散り、それを振り払うように首を横に振るが乱暴なピストンに内臓を抉られるような衝撃に何も考えることができなくなる。
「や、っ、せ、んぱ……ぁ……っ!」
滲む視界の中、下着の中で破裂せんばかりに膨らんだ性器が入り、血の気が引く。なんで自分が勃起しているのか分からなかった。けれど、その疑問も阿賀松の指によってすぐに吹き飛ぶ。
「ぁ、あ、あっ、あ……っ」
強烈な痛みに混ざって、甘い快感が徐々に腹の奥から迫り上がってくる。
息が苦しい。それ以上に、何も考えられなくなる。感じたことのない、制御不能の強い刺激に、頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱される。それは自分の口から出る声が自分のものと判断つかないほどだった。
射精する。張り詰めた下腹部、喉元まで出かかってるなにかにそう察した時だった。
阿賀松の指が引き抜かれる。
「……っぇ……」
もうすぐでイキそうだったのに、先程までの快感が嘘のように引いていく。それなのに、集まっていた熱は行き場を無くして腹の中でぐるぐる回っていて。
目の前、呆然と阿賀松を見上げれば、阿賀松は笑った。
「なんつー顔してんだよ」
そして、自分の下腹部、ファスナーを下ろした阿賀松は俺の腿を掴んだ。
「っ、ぁ……」
「人が指でいかせんのは可哀想だと思って気を利かしてやったっつーのによぉ、処女のくせに……ッ」
先程まで複数の指によって抉じ開けられ、ぱっくりと開いたそこに硬い感触が押し当てられる。
指とは比べ物にならないほどの、熱、質量に息が詰まりそうになった。
「っ、待って、そんなの入らな……」
「今更ぶってんじゃねーーーよ、雌みたいなアホ顔してたやつがよぉ!」
「っ、ぁ、ひ、あぁッ!!」
瞬間、内臓ごと抉られるような衝撃が走る。
その一瞬、俺は確かに意識を飛ばしていたようだ。阿賀松が腰を動かすたびに脳天を駆け抜けていく衝撃に揺さぶられ、脳味噌がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられるようだった。
例えるなら、焼いた鉄パイプで体を貫かれるような感覚だった。
みちみちと音を立て無理矢理押し広げ、入り込んでくるよく知らない男の性器に全身の血液が熱湯のように熱く、沸騰するみたいにぐつぐつ煮え滾れば何も考えられなくて。
「っ、ひ、ぁ、っぐッ」
「流石に、きっついなぁ……食い千切られそうだ……ッ」
笑みを引き攣らせた阿賀松は、言いながらもようやく亀頭部分を飲み込んだそこに指を這わせる。
苦しくて、涙が止まらなくて、それなのに、「なら止めるか」なんて言わずに腰を動かしてくる阿賀松に俺は声にならない声を漏らした。
「っ、ぅ……あ……ぁあ……っ!」
体の中、先走りを塗り付けるように緩く内部を摩擦される度に濡れた音が腹の中で響く。
濃厚な血の匂い。阿賀松の体重を加えられる度にずぶずぶと深くまで入り込んでくる性器。
腿を掴まれ、力任せに根本までぐっと押し込まれれば、自分のものとは思えない声が口から飛び出る。
「っ、は……っ、あ、ぁ、あ……ッ」
「ユウキ君、見てみろよ。お前のちいせぇケツの穴に俺の、根本まで入ったぞ」
「っ、ぅ、うぅ……ッ」
「へぇ、泣くほど嬉しいかよ」
「可愛いな」と、呟く阿賀松。もう阿賀松の声なんて耳に届かなかった。汗で額に張り付いた前髪を撫でられ、その不快な感触にまた体が反応する。
不自然に膨らんだ腹の中、他人の熱が酷く不愉快で、怖くて、情けなくて、自分の股の間、密着した阿賀松の下腹部が目についただけで涙が止まらなかった。
「っ、ぁ、いっ、ぁ、動か、ないで……ッ」
「動かなかったらどうすんだよ。……それとも、お前はこのままずっと俺と繋がっていたいのかよ」
「情熱的だな、ユウキ君」と、目を細め、微笑む阿賀松に身の毛がよだつ。
それだけは嫌だと必死に首を横に振れば、阿賀松はそれを鼻で笑い、奥まで入った性器を抜き始める。
「っ、ぁ、……あ、え……ッ?!」
濡れた肉の感触がずるずると体内を這いずり、軽くなる腹の中の異物感に今度は戸惑う番だった。
もしかしてもうやめてくれるのだろうか、なんて淡い希望を抱いた俺が馬鹿だった。
先端部、その凹凸が入り口付近の肉壁を掠めた瞬間、一気に腰を打ち付けられ、頭の中が真っ白になった。声すら上げることが出来なかった。
根本まで一気に挿入され、その衝撃で目を見開く俺。
阿賀松はまた腰を引き始める。今度は何されるか分かっただけに、せめて衝撃を和らげようと震える指先で阿賀松の腹部に触れる。
けれど、
「ぁアァあっ!!」
下半身が破裂しそうな程の刺激に、絶叫にも似た声が喉から溢れ出す。
痛い、苦しい、お腹が、どうにかなりそうだ。
嫌だ嫌だと阿賀松を退けようとするが、阿賀松はそんな俺を見下ろして笑うばかりで、執拗に奥をぐりぐりと亀頭で抉られれば、何も考えられなくなる。
「ぁ、やっ、抜いッ、先輩ッ」
繰り返し、何度も抜かれそうになっては一気に奥まで抉られる。その度に頭の中は真っ白になって、次第に早さを増す一連の動作に頭の中を直接掻き混ぜられるかのような錯覚を覚えるほど、俺は何も考えられなくなった。
痛い。苦しい。熱くて、結合部から蕩けてしまいそうなほど熱くて、阿賀松の動きに合わせて動き始める自分の腰に生きた心地がしなくて。
「っ、ぁ、あ、っ、あ、ぁあ……ッ!」
ぐちゅぐちゅと音を立て何度も擦り上げられる内壁は傷だらけになっていることは間違いないだろう。痛みのあまり感覚が麻痺し始め、ただ阿賀松の性器の感触だけは鋭利に俺の五感を刺激してくるのだ。これ以上の苦痛があるというのだろうか。
「っは、ユウキ君素質あんじゃねえの? ……こんな風にされて、なんで勃起してんだよ……ッ!」
「っ、ぼっ、きなんか、して……」
「してるだろ? 目を逸らしてんじゃねえよ」
「っ、ぁ、ひ、ィ」
「そんなに痛いのがお好みかぁ? なら、お応えしねぇとなぁ……ッ!」
いつの間にかに下着から頭を出していた性器をぎゅっと握られ、全身の筋肉が縮小する。
尻の痛みだけでもいっぱいいっぱいだというのに、既に透明な液体でどろどろに濡れた尿道口を爪先でほじられれば言葉に出来ないほどの感覚が一気に頭の中で爆発する。
目の前が赤く染まり、それが自分の体温上昇による錯覚だということに気付いたのは後になってだった。
「や、らッ、指、離して……っ」
「呂律回ってねぇじゃねえかよ、聞こえねえよ、そんな声じゃ」
「っ、いやだ、嫌だ、先輩、っやめてッ」
「っそうそう、もっと腹から声を出さねえと……なぁ……ッ!」
「ひィ――ッ!!」
ぐっと性器を握り込まれたと同時に、先程以上に膨張した性器で最奥を抉られた瞬間、下半身が大きく痙攣する。
それだけならまだ良かった。
先走りを全体に絡めるように、勃起した俺の性器を扱き始める阿賀松に、下腹部の痙攣は収まるどころか激しさを増して。
「っ、だ、め、せんぱっ、や、ぁっ、あぁ……ッ」
「なら、もっと俺を良くしてくれよ……っ、ほら……ッ!」
「ぁっ、や、だ、ぁあ……ッ!」
腹の中、ぐるぐると巡る熱が阿賀松が腰を動かす度に性器に集中していくのが分かった。
嫌だ、こんな人の手で、いきたくない。そう思うのに、そんな俺の理性とは裏腹に、あまりにも強すぎる快感に脈は加速する。
「……ユウキ君……ッ」
吐息混じり、阿賀松に名前を呼ばれた瞬間、根本まで深く挿入された性器から腹の奥目掛けて熱が溢れ出す。
初めてその感覚に驚いて、全身の筋肉が弛んだその瞬間、俺は阿賀松の手の中に射精してしまう。
「っ、は、ぁ……ッ」
力が抜ける。力だけではない、何もかもどうでも良くなるような、それほどまでの脱力感に苛まれる。腹の中の阿賀松のものが萎むのが分かった。
「ユウキ君」
名前を呼ばれ、髪を掴まれた。
無理矢理顔を上げられたとき、目の前に突き出される携帯端末に血の気が引いた。
フラッシュはなかった。それでも、何をされたかくらいは分かった。
「なんで、撮って……」
呆然とする俺を無視して、端末を仕舞った阿賀松は俺から引き抜いた。
その代わり、どろりとした液体が溢れ出しては便器の蓋を白く赤く汚す。
「なんでって……記念撮影?」
「き……ねん……?」
「せっかく会長に見せるんだから、どうせなら分かりやすいのがいいだろ?」
そう悪びれた様子もなく笑う阿賀松に血の気が引いていく。冗談だと思っていた。けれど今なら分かる、この男は本気だと。
「消して、下さい……っ」
「嫌だ。あ、ついでに後片付けよろしくな」
「っ、な……」
「それじゃ、『また』な……ユウキ君」
自分一人さっさと身なりを整えた阿賀松はこちらに手を振り、当たり前のように個室を後にする。
遠くから「伊織さん!」という安久の声が聞こえてくる。それから二人分の足音が離れていく。
追いかけないと、後を追い掛けて、消してもらわないと。
そう思うのには、下半身に力が入らなくて、起き上がろうと腰に力を入れるがただ中に残った阿賀松の精液が溢れるばかりで。
「冗談……だろ……ッ」
へたり込む。
こんなことなら足腰を鍛えておけばよかったなんて、今更思ったところでもう遅い。ボロボロと溢れる涙を拭うこともできないまま、結局俺はまともに立ち上がるようになるまでそこから動けなかった。
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