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06※

 ただでさえ時間がないというのに、何故こうなるのか。日頃の行いと言われればなにも言えなくなってしまう。  それでも、だとしても俺にとって志摩は予測できるような相手ではないことは間違いない。  嫌いだと言うし、無視するし、なのに気付けばいつも傍には志摩がいた。  ……そして、それは今もだ。 「……っ、志摩、頼むから、話を……」 「話? ……してるじゃん、ほら。まるで人が齋藤の話を聞いてないみたいな物言いするよね齋藤って。ああそっか、俺がぜーんぶ悪いんだったね。ごめんね、齋藤」  ボタンを引きちぎる勢いでシャツを引っ張られ、血の気が引いた。 「やめろ」という声なんて志摩には届いていない。開けたシャツの下、胸元まで這い上がってくる志摩の指はそのまま心臓の辺りを突き立て、動きを止める。 「……っ、志摩」 「心臓の音すごいね、齋藤。ドクドクいってる。ねえ、もしかして緊張してる?」 「こんなこと、してる場合じゃ……」  ないんだ、と続けるよりも先に志摩の手に胸のその先、寒さで固くなっていた突起をぎゅっと抓られ、あまりの痛みに「ぅ」と小さく声が漏れた。 「こんなことね、すごいなあ齋藤は。……色んな男相手に股開いてたからこんなことされたくらいじゃ何も感じないんだもんね」 「……っ、ち、が……ッ」 「違わないでしょ。……ねえ齋藤、また心臓の音速くなったね。痛いのは好き?」 「っ、ぅ゛……ぐ……ッ」 「俺は嫌い」と、口にする志摩の目は確かにこちらを向いている。なのに、その目は俺を映してない。  ただ純粋に怖かった。少なくとも、今までどれだけ臍を曲げていても志摩はちゃんと俺の目を見ていたから。いや違う、今目を逸らしているのは、寧ろ。 「どうしたの、齋藤。そんな顔して」  不意に伸びてきた手に顎を掴まれ、僅かに持ち上げられた。至近距離で視線がぶつかり合う。  一瞬、怯みそうになったが、真っ直ぐにこちらを見下ろしてくる冷たい目から視線を逸らすことができなかった。  ほんの一瞬、確かに間があった。そして、短い沈黙の末、やがて志摩は目を細めた。  ……嬉しそうに。愉しそうに。 「ようやく俺のことを見てくれたね」  志摩がそう、口元に笑みを浮かべたときだ。 「っあ、ぐッ」  針が刺さったかのような痛みが脳天を貫いた。  胸の突起を思いっきり抓んでくる志摩に全身の毛穴が開き、ぶわりと汗が滲む。 「でももう遅いよ、齋藤。遅すぎだよ。俺はずっと見てたのに、齋藤のこと」  ぎちぎちぎち、と皮膚が引っ張られるような嫌な音が聞こえてくるようだった。  爪を捩じ込むように先端部を押し潰され、あまりの痛みに全身の血液が一気に沸き上がる。それと同時に、つんと涙が滲んだ。 「っぐ、ぅ、……や、志摩……っ! やめて、っも、お願いだから……っ!」  手が使えない。そのことがこれほどまでに恐ろしく思ったことがあっただろうか。  必死に背中を丸めて志摩の指から逃げようとするが、逃れるどころかその刺すような痛みは増していく。とうとう我慢できなくなった俺は叫ぶように「志摩っ!」と声を上げた。 「ねえ齋藤ってこういうときはちゃんと俺の名前も呼んでくれるんだね」 「……っ、ぃやだ、こんなの……ッ」 「そう言う割に、“ここ”はしっかりと反応しているようだけど」 「ぐ、ぅ゛……ッ!」  爪が外れたと思えば、今度はくるくると指の腹で柔らかく押しつぶされ、大きく胸をのけぞらせた。自ら壁に背筋を押しつければ、志摩はクスクスと笑った。 「いいね、これ。この格好、いじって下さいって言ってるみたいで興奮するかも」 「っ、ひ、」 「ねえ、齋藤。真っ赤になっちゃったね、ここ」  明らかに片方だけ腫れ上がり、硬くなったそこにふっと息を吹きかけられ、堪らず上体が震えた。志摩、と小さく呻けば、そのまま胸元に顔を寄せた志摩は赤くなった乳首に舌を這わせるのだ。 「な、……ッ!」  いくら人気はないとはいえど、いつどこから誰かがやってくるかも分からない通路だ。そんなところで胸にしゃぶりついてくる目の前の男に血の気が引き、息が止まりそうになる。 「っ、しま、やめて、本当に……っ」 「……っ、は、ん、……なに? 本当に……」 「っ、こ、んなこと」  こんなことしたって何にもならない。  そんなこと、俺も志摩も分かっているはずだ。それなのに、また繰り返すのか。  訴えかければ、こちらを見上げた志摩はそのまま何も言わずに舌を伸ばす。そして柔らかくなった乳輪へと乳首を埋め込むように舌で穿り返され、堪らず「うぅっ」と声が漏れた。 「っ、ゃ……ッ、んう゛……ッ! い、やだ、やめ、志摩……っ、う゛……ッ!」  先程まで散々痛くされたそこを甘く噛まれるだけで、先程の痛みが勝手に蘇り、恐怖で全身が反応しそうになる。そんな俺を冷めた目で見上げたまま志摩は更に乳輪ごと唇を這わせ、そして歯を立てるのだ。 「っ、く、ぅ゛……ッ!!」  食われる、と思うほどの痛みと衝撃だった。皮膚に食い込み、躊躇なく突き立てられる歯に全身が恐怖で引きつり、下半身に熱が溜まる。ぷちりと穴を開けられた皮膚から滲む血液を、志摩はそのまま舌で舐め取り、ぢゅぶ、と音を立て吸い上げるのだ。 「っ、ひ、ぅ゛……ッ、く……ッ!」  痛い。痛くて、怖いはずなのに、  恐怖のあまり、耳のすぐ後ろで破裂しそうなほどの心音が響いていた。生理的な涙で滲む視界の中、真っ赤になった俺の胸と自分の唇を舐めた志摩はそのまま俺に顔を寄せるのだ。 「……っ、ふ、ぅ゛……」  そして、志摩はそのまま俺の目尻に溜まっていた涙を舐めとる。赤く血で汚れた舌先がその唇から覗くのを見た。 「……俺、結構齋藤の笑う顔好きだったんだけどさ」 「泣いてる方が似合ってるよ」と、一言。  そうにっこりと微笑む志摩に、俺はただ背筋が凍りつくのを感じた。 「っ、い、やだ……ッ、志摩……っ!」 「そりゃあそうだろうね、だって嫌いなやつに犯されそうになってるんだから。ねえ齋藤、今どういう気持ち?」 「ああ、でも、別に初めてじゃないから今更かな」なんて、志摩はくすくすと笑った。  生徒会室から出て、今どれくらい経ったのかなんて考えたくもなかった。 こんなことをしている場合ではない、と必死に志摩から逃げようにも縛られたままでは志摩に敵うはずもなかった。 「なに? もしかしてまだ俺から逃げようとしてる? それ」 そんな藻掻く俺の態度が癇に障ったらしい。そのまま舌打ちをした志摩に肩を掴まれ、今度は胸を壁に押し付けられるのだ。拍子に傷ついた胸元が圧迫され、その痛みに呻き声が漏れてしまう。 「く、う……っ」  目の前には壁。手をつくことも出来ず、背後に立つ志摩に肩を壁に押し付けられた俺は背後を振り返ることすら儘ならない。  不意に、志摩の手が這う下腹部からがちゃがちゃと耳障りな金擦れ音が聞こえてきて背筋が震える。  冗談だろ、ここでするつもりなのか。 「志摩、お願いだから……っ、もう……」 「なに? 往生際が悪いなあ。大好きな会長さんとしてるとでも考えてたらどうかな?」 「かいちょ、は、こんなこと……しない……っ」  緩められたウエスト。そのままスラックスを脱がそうとしていた志摩の手が一瞬、確かに動きを止めた。  しかし、それも束の間。 「嘘吐き」  冷たく志摩は吐き捨てる。  スラックスは足元へと落ちていき、そしてシャツの裾の下。剥き出しになった尻に志摩の手が触れる。表面をなぞるようにすっと這わされる指に、ひくりと腰が震えた。 「嘘じゃな……ん、ぅッ!」  言いかけた矢先、ボクサータイプの下着の裾から入り込んで来た指が乾いたそこに捩じ込まれる。瞬間、引っ張られるような痛みに下腹部が疼いた。 「っぁ、痛……っ、志摩っ、抜いて……ッ!」 「いつも二人で笑ってるんでしょ、俺を、周りのやつら見下ろして。……二人でさ」  まるで俺の声なんて届いていないかのようにうわ言を呟く志摩は、そのまま指を更に奥へと深く埋め込んでいく。体内に侵入してくるそれが動く度に内壁が悲鳴を上げ、生理的な涙が溢れた。 「ずっと一緒にいるんだもんね? そりゃヤリまくるに決まってるよ。ねえ? 何回したの? どんな体位でした? 気持ちよかった? 俺とどっちがいい?」  意味が、わからない。なぜ会長を引き合いに出すのか。  しかも、そんな下世話な話題で。  付き合っているということになっているのは事実だし、以前他の生徒からも似たようなことを吹っかけられたこともあった。  だけど、少なくとも志摩は。他の人間よりも俺と一緒にいる時間が長い志摩ならば。  なんて幻想を抱いていただけに、吐き出された志摩の言葉はどんな言葉の暴力よりもショックを受ける。 「ねえ、齋藤」  けれど、今の俺には感傷に浸ることすら許されなかった。  渇いた内壁を引っ掛かれ、下腹部の裂けるような痛みにすぐ現実へと引き返される。  奥深くまで捩じ込まれた指は故意に曲げられ、腹の奥で突っ張るような痛みに堪らず全身が緊張する。 「……っぅ、ぐ、ぅ……っ!」 「ねえ、無視しないでよ。そんなに俺のこと嫌い? 殺したい? ねえ、齋藤」  二本目、だろう。あまりの痛みで痛覚がマヒし始めているようだ。  捩じ込まれた一本の指で既にいっぱいになっているそこに、もう一本、指先が押し当てられる。更に括約筋を押し広げながら侵入してくる指に、汗が滲む。 「っぐ、う……ッ」 「流石にきついね。……けど、齋藤の中、火傷しそうなほど熱くて……挿入れたら気持ちよさそうだね」  背後、覆いかぶさってくる志摩。耳元で囁かれるその言葉に冷たい汗が滲む。  冗談だろ、と青ざめた矢先だった。志摩の指が引き抜かれ、異物感がなくなる。その代わり、そのままぐに、と尻の谷間ごと肛門を左右に割り拡げられるのだ。  火照った体内に外気のひんやりとした空気が触れ、「ひ」と息を飲む。そして、そのまま押し当てられる熱に喉が、背筋が震えた。 「ま、って……志摩……っ!」  今、それを挿れられたら。  痛みが想像ついただけに咄嗟に腰を捻って逃げようとするが、そのまま乱暴に腰を掴まれる。  食い込む指、頭の後ろからは志摩の呼吸が聞こえてきて、「志摩」と喘いだ次の瞬間、容赦なくその性器をねじ込まれるのだ。 「――ッひ、ぐ……ッ!!」  痛みには慣れている。堪えられる。  それでも、この瞬間ばかりは話が別だ。  硬く勃起した性器は、必死に拒もうとしていた俺の体を無視して体重をかけるように奥まで入ってくるのだ。  辺りに血の匂いが広がり、志摩が腰を動かす度に乾いた音が響く。指なんて比にならないほど痛い。苦しくて、焼けるような激痛に瞼裏は真っ白になっていく。 「ぁ、……ひっ、ぐ……っ!」 「痛い? だろうね、だって痛くしてるんだもん。わかる? 齋藤。もうここまで入っちゃった」 「ぅ、ぐ、ひ……ッ!」  ここ、と下腹部に伸びた志摩の手に腹を撫でられ、柔らかく押さえつけられる。  外部からの圧に刺激がより一層強くなり、全身が粟立った。 「っ、ぬ、いて、志摩……っ、志摩……ッ!」  ――お願いだから、不快な思いをさせたのなら謝るから。  そう、必死に背後の志摩に懇願すれば、腹の奥、挿入された志摩のものがどくんと脈打ち更に大きくなるのがわかった。  そして、 「ごめんね、齋藤」  そのまま抱き寄せるように、背後から志摩に抱きしめられる。表紙にぐぷ、と更に奥へと入ってくる性器の感触に背筋が痺れた。  そして心臓の音が伝わってきそうなほど、ぴったりとくっついてくる志摩の上半身。耳朶に押し当てられる唇が小さく動く。 「――すっげえ可愛い」 「痛がってる齋藤すげぇ可愛いよ」と、吐息混じり、吐き出される志摩の言葉に頭が真っ白になる。  そして咄嗟に逃げようとしたが、なにもかも遅かった。  密着した下腹部、腰を抱き抱えるように掴まれた腰。次の瞬間、下から一気に根本まで深く突き上げられた。  自分の喉から溢れる、声にならない絶叫とともに、今度こそ体のどこかが破れるような音を聞いた。  痛み、痛み、痛み、ひたすら痛み。気持ちいいとかそんなことよりも、痛め付けるのを目的とした行為は志摩の目論み通りひたすら苦痛でしかない。  痛みを痛みとして認識できる思考力なんて以ての外、抜けた腰で立つこともできない俺の体を押さえ付け、力任せに繰り返される抽挿にもうなにも考えることはできなかった。 「っ、つ、ぅ、く……ッ!」  汗が滲み、靄がかったように意識が朦朧としてくる。  いっそのこと意識を飛ばすことがでこればどれほどよかっただろうか。  体内。焼けるように熱く、硬く膨張したものに内壁を削るように中を摩擦される度にその痛みに意識を引き戻されるのだ。 「ッぃ゛、ぐ、く、ぁ゛……あ゛ッッ」 「っやっぱり、熱いなぁ……齋藤の中」 「溶けちゃいそう」と浅く息を吐き出す志摩。  その言葉に反応するかのように腰を抱き寄せる腕に力が入り、打ち付けられる腰の動きが激しさを増した。粘膜越しに流れ込んでくる志摩の鼓動の間隔が短くなる。 「っぅ゛っ、ぐ、く、ぅんん゛……ッ!」 「……っはは、見てよこれ。俺の、齋藤の血で真っ赤になってる……っ、ああ、齋藤からは見えないか」  自分で笑い、自分で詰まらなさそうにする志摩。その笑い声すらも今の俺に取っては苦痛でしかない。志摩が笑うたびに結合部伝いに流れ込んでくる振動に、ズタズタに傷付けられた内壁に激痛が走った。 「まあいいや、取り敢えず一回齋藤の中に出すから。……ちゃんと、一滴残らず全部飲み干してね」  耳元で囁かれる言葉に、笑う志摩に血の気が引いた。  今中に出されたらと思うとぞっとした。  なけなしの力を振り絞って逃げようとするが、胸元へと伸びてきた志摩の腕にがっしりと抱き寄せられてしまう。 「っ、ぃやだ、志摩……っ、ぁ゛、ぐ……っ!」 「嫌じゃないでしょ、ほら……っ、逃げるなよ」 「っ、ぎ、ひ……ッ!」  食い込む志摩の指に強く抱き寄せられた次の瞬間、腹の奥深く、根本まで収まったそこが腹の奥で脈打つのが分かった。  次の瞬間、 「ッ、ぁっ、あ゛ぁ……ッ!」  ズタズタに傷付けられた粘膜に染み込む熱に堪らず喉奥から声が漏れてしまう。  逃げようとしても志摩は更に俺を抱きすくめ、そして肩口に顔を押し付けてくるのだ。這わされる舌、食い込む歯の痛みなど体内の痛みに比べれば些細なものだった。 「っ、は、ぁ゛……っ」  びくびくと痙攣する下半身。受け止めきれなかった精液がぶぴゅ、と僅かに漏れ出すのを見て志摩は笑った。 「いっぱい出しちゃった、ごめんね?」  四肢から力が抜け落ち、そのまま床に落ちそうになる俺の体を抱きかかえた志摩は笑う。  そして、そのまま志摩は俺を抱え直すのだ。体位を変えた拍子に僅かにできた隙間からぶぴゅ、と品のない音を立てて精液が噴き出す。 「ま、しま、も……ぉ゛……ッ!」  無理だ、と言い終わるよりも先に、腿を掴んだまま更に奥に栓をするように腰を打ち付けてくる志摩に言葉を遮られる。  出したばかりだというのにもう芯を持っているそこに気付き、目の前が真っ暗になっていく。 「志摩……っごめん、謝るから……っも……ゆるして……っ、」 「齋藤、また泣いてるの? ……本当泣き虫だよね、齋藤って」 「泣けばなんとかなると思ってるのかな?」と囁かれる言葉に背筋が凍る。  志摩の精液で満たされた腹の中、行き場をなくして腹の中に溜まったそこを性器でかき混ぜられる度に吐き気が込み上げる。 「いやだ、しま」と必死に頭を動かせば、すぐ鼻先には志摩の顔があった。そして、目が合えば志摩はにっこりと笑う。 「……俺はね、齋藤。別に齋藤のそんな薄っぺらい感情の篭ってない謝罪なんて全くもって興味もないしどうでもいいんだよ。それよりも、齋藤が俺を見てくれてるってだけで……」  満たされるんだ、と志摩の唇が動いた次の瞬間。  右足に志摩の手が伸びてきたかと思えば、「よっと」と志摩が小さく呟くと同時に開脚させられるように片足を持ち上げられる。 「ぁ、い、ぐ……ッ!」 「は……っ、流石に重いね。齋藤」  重心が傾き、腰が落ちると同時に下半身に体重がかかる。瞬間、更に深く突き刺さる性器に意識が飛びそうになった。  退こうとしても手が使えない今、まともに志摩から逃れることもできなかった。動こうとすればするほど自重により志摩の性器が刺さり、背筋がぴんと伸びた。 「っ、ぁ゛ま、や゛……っ」 「疲れた? 休みたい? でもごめんね。俺、齋藤を気遣う余裕なんてないから」 「じま、も゛、これ以上は……ぉ、おれ……っ」 「嫌いになる?」 「……ッ!」 「いいよ、別に好きなだけ嫌っても。恨んでもいいよ。憎んでもいい」 「だって、お互い様だしね」と笑う志摩はどこか吹っ切れたような口調だった。  次の瞬間、志摩に腰を持ち上げられる。壁に背中がぶつかり、痛みに喘いだのもつかの間、そのまま開脚させられたそこに向かって乱暴に腰を打ち付けられ悲鳴染みた声が喉から溢れた。  志摩の性器が出入りする度に血液混じりの精液が溢れ、腿を汚していく。精液のお陰でスムーズになった抽挿はより俺を苛めた。  ――開き直った人間ほど、恐ろしいものはない。  そのことを身をもって知っている俺は、目の前で笑う初めて出来た友人に、友人だった男に泣きそうになった。 「志摩……ッ」  どうしてこうも、上手くいかないんだ。  軌道修正を図るには、志摩の気持ちが遠すぎて。無理矢理繋がれた箇所から流れ込んでくる熱に、ただ嫌悪感を覚えるばかりだった。  そんなときだ、最悪のタイミングで制服のポケットが震え出す。  どうやら携帯に着信があったようだ。最悪だ、と血の気が引いた。  そして、そのとき志摩の動きが停まる。片手で俺の腿を掴んだまま、志摩はもう片方の手で俺の制服のポケットに手を突っ込んだ。  そして、 「……齋藤、携帯変えた?」  志摩の手には安久から借りていたピンクの携帯端末が握られていて、『メイン携帯』と見慣れない番号を表示したそのディスプレイをこちらに向けた志摩は冷ややかな目でこちらを見ていた。  恐らく、あまりにも連絡がない俺を心配して安久が連絡を寄越したのだろう。  助かったが、このタイミングではまずい。返して、と口を動かそうとしたとき。 「もしもし?」  躊躇いもなく電話に出る志摩にぎょっとする。  よりによって、こんな状況で。 「は、安久? なんでお前が……齋藤? なに、なんでお前が齋藤に用があるわけ?」 「ッ、ぅ、く……ふ……ッ」  信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない。  どういう神経をしているんだ。  声を抑えるにしても抑えるための手が使えない今、ただ必死に唇を噛み締めることしかできなかった。  端末を手にした志摩が喋る度に粘膜へと振動が伝わって、それ以上にこの耳障りな音が電話の向こうにいる安久に伝わらないか気が気でなかった。  そのまま携帯を持ち直す志摩。その手からひらりとなにかが落ちる。くしゃくしゃになったそのメモ用紙には見覚えがあった。  ――灘から受け取ったメモ用紙だ。  どうやら携帯を取り出した拍子に志摩の手に挟まっていたらしい。宙に舞うそれを器用に受け止めた志摩は躊躇なく折りたたまれた用紙を広げた。そこに書かれた文字に目を向けた志摩は目を見開いた。    そして、 「……ぁ……っ」  ぐしゃり、と志摩の手の中でメモ用紙は握り潰される。  確か、あのメモには三桁の数字が書かれていただけだ。なのに、なんで志摩はこんなに怒っているんだ。 「……あーごめん、齋藤、今忙しいから」 「じゃ」と志摩はそのまま一方的に安久との通話を終了させる。そして、そのまま俺から性器を引き抜くと同時に俺から手を離した。  もちろん、そんなことしたら支えもない俺の体は落ちるわけで。 「っな、ぇ……ッ!」  もうなにがなんだか分からなかった。  栓がなくなり、どろりと溢れる精液を拭う暇もなく尻もちつく俺の目の前に、からんとピンク色の携帯端末が落ちる。  画面が割れたらどうするつもりなのだ、と端末の心配してる場合ではない。ベルトを締め直した志摩はそのまま息を吐いて俺の前に座り込む。  真正面、向かい合うように目線を合わせてくる志摩に笑みはなかった。そして、戸惑う俺の鼻先にぐしゃぐしゃになったあのメモを突き付けてくる。 「……なにこれ。なんで齋藤が知ってんの?」 「ま、っ、ちょっと、なに……」 「なんで齋藤が知ってんのって聞いてんだけど」 「い゛……っ!」  前髪を掴まれ、額と額がぶつかるくらいの勢いで詰めてくる志摩に気圧される。  なぜ志摩がここまで怒ってるのかが理解できなかった。そもそも、俺にはこのメモの意味すらわからない。ひたすら首を横に振るのが精一杯だった。 「知らな……っ、俺、たまたま拾って……っ」 「どこで?」 「志摩……っ?」 「どこでって聞いてんの」  人が変わったかのような志摩の態度がただ怖かった。  原因がわからないだけにどう対応したらいいのかがわからない。口籠っていると「齋藤」と痺れを切らした志摩に肩を掴まれた。  灘と縁のことを言うべきか迷ったが、このままでは平行線を辿るばかりだ。意を決し、俺は恐る恐る口を開いた。 「ろっ、ロッカーで……灘君から……ッ」 「灘? ……は? 灘和真?」 「なんであいつが!」といきなり大きな声を出す志摩にびくりと全身が震える。  志摩が取り乱している……あの志摩が。その姿は演技には見えない。 「っ、くそ……ッ! どうして……っ、っていうか、なにロッカーって。どういうこと?」  豹変する志摩に戸惑ったが、このまま下手に知らないふりをした方が危険だろう。  観念した俺は志摩を落ち着かせるため、説明できることだけ話すことにした。 恐らく、あまりにも連絡がない俺を心配して安久が連絡を寄越したのだろう。  助かったが、このタイミングではまずい。返して、と口を動かそうとしたとき。 「もしもし?」  躊躇いもなく電話に出る志摩にぎょっとする。  よりによって、こんな状況で。 「は、安久? なんでお前が……齋藤? なに、なんでお前が齋藤に用があるわけ?」 「ッ、ぅ、く……ふ……ッ」  信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない。  どういう神経をしているんだ。  声を抑えるにしても抑えるための手が使えない今、ただ必死に唇を噛み締めることしかできなかった。  端末を手にした志摩が喋る度に粘膜へと振動が伝わって、それ以上にこの耳障りな音が電話の向こうにいる安久に伝わらないか気が気でなかった。  そのまま携帯を持ち直す志摩。その手からひらりとなにかが落ちる。くしゃくしゃになったそのメモ用紙には見覚えがあった。  ――灘から受け取ったメモ用紙だ。  どうやら携帯を取り出した拍子に志摩の手に挟まっていたらしい。宙に舞うそれを器用に受け止めた志摩は躊躇なく折りたたまれた用紙を広げた。そこに書かれた文字に目を向けた志摩は目を見開いた。    そして、 「……ぁ……っ」  ぐしゃり、と志摩の手の中でメモ用紙は握り潰される。  確か、あのメモには三桁の数字が書かれていただけだ。なのに、なんで志摩はこんなに怒っているんだ。 「……あーごめん、齋藤、今忙しいから」 「じゃ」と志摩はそのまま一方的に安久との通話を終了させる。そして、そのまま俺から性器を引き抜くと同時に俺から手を離した。  もちろん、そんなことしたら支えもない俺の体は落ちるわけで。 「っな、ぇ……ッ!」  もうなにがなんだか分からなかった。  栓がなくなり、どろりと溢れる精液を拭う暇もなく尻もちつく俺の目の前に、からんとピンク色の携帯端末が落ちる。  画面が割れたらどうするつもりなのだ、と端末の心配してる場合ではない。ベルトを締め直した志摩はそのまま息を吐いて俺の前に座り込む。  真正面、向かい合うように目線を合わせてくる志摩に笑みはなかった。そして、戸惑う俺の鼻先にぐしゃぐしゃになったあのメモを突き付けてくる。 「……なにこれ。なんで齋藤が知ってんの?」 「ま、っ、ちょっと、なに……」 「なんで齋藤が知ってんのって聞いてんだけど」 「い゛……っ!」  前髪を掴まれ、額と額がぶつかるくらいの勢いで詰めてくる志摩に気圧される。  なぜ志摩がここまで怒ってるのかが理解できなかった。そもそも、俺にはこのメモの意味すらわからない。ひたすら首を横に振るのが精一杯だった。 「知らな……っ、俺、たまたま拾って……っ」 「どこで?」 「志摩……っ?」 「どこでって聞いてんの」  人が変わったかのような志摩の態度がただ怖かった。  原因がわからないだけにどう対応したらいいのかがわからない。口籠っていると「齋藤」と痺れを切らした志摩に肩を掴まれた。  灘と縁のことを言うべきか迷ったが、このままでは平行線を辿るばかりだ。意を決し、俺は恐る恐る口を開いた。 「ろっ、ロッカーで……灘君から……ッ」 「灘? ……は? 灘和真?」 「なんであいつが!」といきなり大きな声を出す志摩にびくりと全身が震える。  志摩が取り乱している……あの志摩が。その姿は演技には見えない。 「っ、くそ……ッ! どうして……っ、っていうか、なにロッカーって。どういうこと?」  豹変する志摩に戸惑ったが、このまま下手に知らないふりをした方が危険だろう。  観念した俺は志摩を落ち着かせるため、説明できることだけ話すことにした。

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