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09【side:壱畝】
◆ ◆ ◆
『二年A組齋藤佑樹、至急生徒会室まで来なさい』
「……」
――この声って、確かあの会長さんか。
授業中の二年A組教室内。スピーカーから聞こえてくる放送をぼんやり聞き流しながら、壱畝遥香は辺りに目を向けた。
ぽっかり空いた複数の席。聞かぬフリするクラスメートたち。
前々から気になっていた。このクラスの生徒は齋藤佑樹に関して酷く無関心――否、関わらないようにしているのだろう。
不自然な態度は転校してきたばかりの壱畝遥香でもひと目で分かるくらいなほど露骨なものだった。
空いた齋藤の席を一瞥し、小さく息を吐いた壱畝は小さく手を上げた。
「――、先生」
静まり返った教室の中。
口を開けば教室中の視線が壱畝に集中した。教壇に立っていた教師もこちらを振り向く。
「お、どうした壱畝」
「すみません、少し具合が悪くなったので保健室行ってきていいですか?」
「ああ、一人で大丈夫か?」
「はい」とだけ短く応えた壱畝遥香はそのまま席を立ち、教室を後にした。
教師に頼み込んで齋藤佑樹と同室にしてもらって数日、部屋にはまだ齋藤佑樹は戻らない。
それどころか、教室にすら姿を現さない齋藤佑樹に壱畝遥香は一抹の虚しさを覚えていた。
――せっかく来たのに、ゆう君がいないならなんの意味もない。
齋藤佑樹がいなければ、誰が好き好んでこんな男しかいないような息苦しい場所に来るのか。
退屈な学生生活への不満は、この場にいない齋藤佑樹への怒りへと転換する。
――第一、授業中だというのになんだ、この騒がしさは。
適当にサボろうかと通路を歩いていると、風紀の腕章をつけた生徒たちとすれ違う。
当たり前のように出歩いている生徒に引っかかりながらも、何気なく窓の外に目を向けたとき。
ふと向かい側の校舎が視界に入った。正しくはその校舎の窓だ。誰かが窓から飛び降りたのだ。
ぎょっとしてそのまま窓に近付けば、地面の上、落ちるように着地したその生徒の姿に更に壱畝は目を見開いた。
「……ゆう君」
その隣には、見覚えのある男子生徒もいた。志摩亮太だ。
制服の胸ポケット、携帯端末を取り出した壱畝遥香。そのままある人物の連絡先を選び、迷わず電話をかける。
そして呼び出しコールは数秒も経たない内に途切れた。
――ゆう君、君にあんなチャラチャラした友達は似合わないよ。
窓の外、手を繋いで走り出す二人を見下ろしながら壱畝遥香は口元を緩めた。
「あ、会長さんですか? ――どうも、俺です、壱畝です」
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