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19※
決して細くはない、鍛えられた阿賀松の腕を受け入れるというだけで恐怖に等しい。拳から手首、腕から肘にかけて性器のように体内を這いずり、こじ開け、出入りする度に歪な形に開かれた肛門は捲れ、内臓ごと引きずり出されてるような錯覚に陥る。
「ぁ゛……ッ、あ゛ぁあ゛……ッ!!」
「なんだ、お前もちゃんといい声出すじゃねえか」
拳ごと一気に引き抜かれたと思えば、ローションと血液で汚れた手を広げて阿賀松は笑う。
志摩の方を見る気力もなかった。足を広げられたまま、肛門を自力で閉じることもできなかった。開いたままの肛門、その周辺の盛り上がった肉を撫でられる。栓を失った体内から溢れるローションを指で拭い、それから阿賀松はそのままベッドの上から動けなくなる俺を抱き抱えるのだ。
よりによって、縛られた志摩に俺の下半身を晒すような体勢で。
「っや、め」
「ほら。よく見とけよ亮太、お前の大好きなユウキ君。お前のせいで腹ん中ズタボロだ」
頼む、見ないでくれ。
必死に足を閉じようとするが、下半身にはろくに力など入らなかった。
それどころか、「暴れんなよ」と阿賀松に膝の裏を掴まれたまま更に大きく固定される。空気が触れる下半身にただ血の気が引いた。そして、向けられる志摩の視線にも。
青褪めた志摩の顔には既に普段の笑顔はなかった。
「……っ、もういいだろ、いい加減にしろ……っ!」
「ああ? じゃあなんだ、てめえがユウキ君の代わりになるって言うのか?」
「……ッ」
「無理だよなぁ、自分の兄貴すら守れなかったやつにそんな御大層な真似」
頭の上で交わされる二人の声。二人の会話の内容を理解するほどの頭はまだ戻ってきていなくて、それでも志摩の苦虫を噛み潰したような表情を見ていると俺も胸が締め付けられてくる。
「……い、じょぶ、です……おれは」
まだ大丈夫だ。まだ耐えられる。
最早末端の感覚は麻痺してきた。肛門も、痛みよりはましだ。そう繰り返しながら、俺は回らない呂律で阿賀松に告げた。志摩は苦しげな表情のまま目を伏せる。
心配しなくても大丈夫だから、と笑い掛けたつもりだったが志摩には届かなかった。その代わり、阿賀松が満足そうに笑っていた。
「だよなぁ。……ま、そうじゃなくても俺からすりゃ関係ねえけど」
阿賀松の膝の上、そのまま軽く持ち上げられたかと思うと、そのまま股の間に硬いものが触れる。スラックスの前を寛げた阿賀松はそのまま下着から性器を取り出すのだ。
直視すらしたくなかった。露出した下腹部、その股の間に押し当てられるその性器の熱、そして重みに全身の熱が増す。
「俺はな、ユウキ君。亮太のことはどうでもいいんだよ。だってこいつのことは最初から宛てにしてねえし、信用もしてねえしな」
「……っ、……ッ」
「でも、ユウキ君。お前は違う。――てめえは俺を騙したんだよ」
開いたままの肛門に掠める性器の感触にぶるりと下半身が震えた。
まるで、まるで俺のことを少しでも信用していたみたいな口振りだ。
そうやって俺をかき乱すつもりなのだろうか。これも、策略なのか。この男にほんの少しでも情を感じては何度もどん底まで落とされてきた。
惑わされるな、と口の中で繰り返す。
なにも見ないように顔を反らしていたのに、阿賀松はそんな俺の顎を掴むのだ。そのまま血で汚れた阿賀松の指先は汚れていた俺の口元を拭う。
「でも今のお前、嫌いじゃねえよ」
「なんで亮太なのか理解に苦しむけどな」惑わされるなと言い聞かせたばかりなのに、思わず阿賀松の言葉に耳を傾けてしまう。目を開けば、そこにはこちらを見下ろしたまま阿賀松と目があった。その口元には確かに笑みが浮かんでいた。
認められた、わけではないだろう。いつものただの気紛れなのだ。言い聞かせる。
甘んじてはダメだ。丸め込まれるな、と。
「っ、ぁ、ぐ」
そんな矢先だった。唇を撫でていた阿賀松の指先はそのまま咥内に捩じ込まれる。
「てめえのだろ、綺麗にしろ」
「っ、ぅ゛……ッ」
「は、なんだ? 俺の靴は舐めれて指は舐めれねえってか? ……モノ好きだな、お前」
「……っ、靴?」
「ああ、そうだよ、灘和真を助ける代わりに靴舐めろっつったらまじで舐めやがったんだよ。こいつ」
つい先程まで自分の体の中に突っ込まれていた手だ。いくらなんでも、それを口にすることに対する生理的嫌悪感は俺にでもある。
それでも強制的に入り込んでくる阿賀松の指に舌を引きずり出され、こびりついた血を俺の舌で拭うようにして指を動かした。
グチャグチャと唾液と鉄の味が広がる。鼻呼吸を我慢しようにもそれは貫通し、脳の奥へと広がって更に具合が悪くなっていくのだ。
「ユウキ君は亮太君を助けるためにどこまでしてくれるんだろうな。楽しみだなぁ?」
「あんたって人は……ッ」
喉を鳴らして笑う阿賀松の言葉、そして呆れたような志摩の声にハッとする。
――そうだ。靴に比べたら、指なんて。
乾き始めていた赤黒い血の塊と饐えた匂いに目眩を覚える。それでも俺は言われるがまま、阿賀松の人差し指の先っぽから根本まで舌を這わせた。
そんな俺に、股の間に挟められたままになっていた阿賀松のものが脈打つのが伝わってきた。太腿の間、赤黒い肉色の亀頭が覗く度に下半身が熱くなる。最低最悪の気分だった。志摩の方を確認することもできない。
唾液を絡め、顎を引き、角度を時折変えながらも必死に阿賀松の手を舐めて綺麗にしていく。じゅぷ、ちゅぷ、と耳障りな音が口の中で響くのだ。必死に、餌につられる犬のように首を伸ばして阿賀松の指にしゃぶりつく。時折指の中で阿賀松の指がぴくりと反応した。
が、それも一瞬のことだった。
「…………チッ、おっせえなぁ……」
苛ついたように息を吐く阿賀松。頭の上から降り注いでくる阿賀松の苛ついたような声にびくりと全身が緊張した。
矢先、俺の口の中に入っていた指はそのまま喉の奥、舌の付け根を掴むのだ。
「ん゛、う゛……ッ!!」
「なぁにちんたらお上品にペロペロしてんだ。こんなんじゃ朝になるだろうが」
「っ、ご、べんなひゃ……っ、ぐぅ……ッ!」
「もっとここ使えよ、ここ。それと、舌の使い方も相変わらずなってねえな。……なんのためにチンポしゃぶってんだ? あ? 学習しろ、学習」
「ぉ゛ッ! ぅ゛、んぶ……っ!」
瞬間、喉奥まで伸びた阿賀松の指に口蓋垂を刺激される。乱暴に擦られ、吐き気とともに粘膜から分泌される唾液を絡め、文字通り俺の口を使って阿賀松は指の汚れを取るのだ。
何度も舌を擦られ、太い指で喉の奥をかき回されれば最早空になったはずの胃から胃液が昇ってくる。そのまま吐き出す俺を見て、「まーた吐きやがった」と阿賀松は片眉を釣り上げる。
そして、そのまま俺の口から指を引き抜いた阿賀松は唾液諸々ででろりと汚れた指を俺の顔に擦り付けるのだ。
「ふ、ぅ……っ」
「きったねえ面。おい、何ボケっとしてんだ」
休む暇もなく、俺の腿を掴んだ阿賀松はそのまま俺の肛門に親指をねじ込んでくる。乱暴に捲るように広げられた肛門にべちんと押し当てられる亀頭の感触に血の気が引き、思わず自分の下半身へと目を向ける。
そして、今まさにねじ込まれようとしていた阿賀松のものに「待ってください」と声をあげようとした瞬間だった。
「ああ? ……待って下さいだと?」
亀頭が体内に入る寸前、粘膜に触れたままぴたりと阿賀松は動きを止めるのだ。そして、目元に垂れた赤い髪の隙間から苛ついたようにこちらを睨みつけてくる阿賀松に息を飲む。
その視線、低い声に、先程まで散々殴られた下腹部がずぐんと重く疼いた。
「っ、ぁ、あ……っ、だ、いま、は」
「散々慣らしてやっただろうが。それとも、まだ足んねえって? ユウキ君のくせに随分といい御身分じゃねえか」
「ご、めんなさ――」
「自分で足を持て」
「……っ」
滲んだ汗が額から流れ落ちる。
阿賀松の言葉を一回で咀嚼することができなかった。見上げたまま動けなくなる俺の前髪を掻き上げ、阿賀松は「聞こえなかったか?」と今度は子供に言い聞かせるような口調で繰り返した。
「自分で足を持つんだよ。ああ、そうだ。俺が挿れやすいように、しっかりケツ持ちあげろよ」
――じゃねえと、取引はここで終いだ。
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