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「ひ、ッ、ぅ゛、ひ……っ!!」 「っ、あ゛ー……っ、はは、すげえゆるゆるすぎんだろ。……っ、オラ、しっかりケツに力入れろ!」 「っぎ、う゛……っ!」  指が食い込むほどの力で尻を揉まれ、そして時折叩かれる。その都度下半身全体に電流が流れたみたいに頭が真っ白になり、自分の意思も関係なく下半身の筋肉が硬く緊張するのだ。阿賀松曰く、その締りが『イイ』という。  最初に塗り込まれた媚薬のお陰か、否媚薬のせいもあるだろう。いつも以上に阿賀松との行為は暴力に等しかった。  開いたままの肛門は阿賀松を受け入れるためだけの器官に成り下がり、与えられる刺激も苦痛もなにもかもが快感の針に代わる。  志摩の声もいつの間にか聞こえなくなっていて、部屋の中に響く阿賀松の怒号、そして自分の口から漏れるくぐもった嗚咽と悲鳴が部屋中に響き渡るのだ。 「ぁ゛、ご、め゛んなさ、ぁ゛……ッ! ひ、ぅ゛、ぶ……っ!」 「ごめんなさいはもう飽きたつってんだろうが、なんて言うかさっき散々教えてやっただろうが。もう忘れたのか?」 「っ、ぃ゛ッ、ひ、ぐ、ぁ゛、りがと、ございますっ、ありがとうございます……っ!」 「……っ相変わらず薄っぺらい礼言いやがって……ッ! ハ、悪くねえな」 「ぉ゛、ん゛う゛……――〜〜ッ!!」  腹の奥まで突き上げてくる性器に眼球がひっくり返りそうになる。出入りする度に内臓の表面ごと引き摺り出されそうになり、声を堪えることもできなかった。泡混じりの唾液が垂れ、痛み以上の恐怖に動くこともできない。  快感とは程遠い、暴力の延長線だ。 「ぐ、ッ、ぅ゛、ひ……ッ!」 「亮太、お前ちゃんと見てっか。テメェの大好きなユウキ君のケツ、暫く使い物になんねえぞ、これ」 「……っ、キチガイ野郎」 「ああ? なんか言ったか?」  聞こえねえな、と膨張した性器で直腸を無理矢理拡張された中を摩擦される都度血液混じりの体液と空気が混ざり合い、腹の中で嫌な音が響く。  俺のケツをオナホかなにかに見立てて腰を打ち付けてくる阿賀松。下半身の感覚は最早なくなっていた。  痙攣する腿を掴まれたまま、奥を穿られる。何度もこじ開けられ、ねじ込まれ、そして腹の奥まで打ち込まれたそれに慣れるよりも先に、膨張した性器からドクンと脈打ち、吐き出される精液に堪らず声が漏れた。 「っ、ふ、ぅ゛……ッ」 「は……っ、しっかり飲めよ、ユウキ君」 「は、いぃ゛……ッ!」  ぐぷ、どぷ、と鼓動ともに流れ込んでくる熱に腹の中を力づくで満たされていく。満たされ、重くなる下半身をがっしりと固定したまま、萎えることなく阿賀松が再び奥を目掛けて腰を動かし始めたのを感じて気が遠くなっていった。  ――どれほど時間が経っただろうか。  そのまま何度か再び中で出されたあと、膨張した内臓に耐えきれず何度もえずきながらも阿賀松を受け入れるハメになる。  そして、唐突に阿賀松は俺の中から性器を引き抜いた。瞬間、ぽっかりと開いた口から中に出された精液がごぽ、と一気に溢れ出すのを見て阿賀松は「いっぱい出たな」と阿賀松の精子で膨らんだ俺の下腹部を撫でるようにそのまま押さえつけるのだ。 「……っ、ぅ゛、ひ……ッ!」  瞬間、行き場を失った精子が一斉に逆流し、勢いよく肛門から吹き出るのを見て阿賀松が笑った。  志摩の声はもう聞こえなかった。  もしかして、終わったのか。  阿賀松から解放され、動く気力もないまま俺はベッドに横たわっていた。  ベッドの横、自分だけ着替えた阿賀松は全裸のまま放心していた俺の顔を覗き込む。 「ユウキ君、俺はな、血が嫌いなんだよな。……なんでだと思う?」  唐突な問い掛けに、狼狽えないほうが難しい。少なくとも、つい先程腕と性器を血まみれにして何度も射精した男の発言とは思えなかった。 「……汚れるから、ですか」  靄がかったように鈍くなった頭の中、無理矢理脳を働かせれば「へえ」とやつは笑う。 「ま、七割正解だな」 「あとの三割はな、うるせえんだよ。……あいつが」あいつ、というのは一体誰のことを指し示しているのか。  そう疑問を抱いたときだった、ばぎりと寝室内になにかが壊れるような音が響く。  なんの音だと寝室の扉に目を向けたそのとき、勢い良く扉が開かれた。瞬間、薄暗い寝室に差し込む明かりの眩しさに思わず目を細めた。 「……っ、ゆうき君!」  それも一瞬。聞こえてきたその声に俺は釣られて目を見開く。  ――壊れた扉の前、立っていたのは阿佐美だった。 「し、おり」 「おいおい、それ壊したのかよ」と肩を揺らし、呆れたように笑う阿賀松を無視し、阿佐美はこちれへと駆け寄ってくる。  そして、「ゆうき君」と今にも泣きそうな枯れた声で俺を呼ぶのだ。  ……これは幻覚なのだろうか。  だって、阿佐美の髪が。 「ゆうき君、ごめん、今助けるから」  ――赤いだなんて。 「おい、詩織ちゃん、勝手なことすんなよ」 「……勝手なことをしたのはあっちゃんだろ。……っこんな時に、よりによって騒ぎを起こすなんて」 「騒ぎだって? 悪いが完全合意だ、なあ、ユウキ君」  こちらを見下ろし、笑いかけてくる阿賀松。その横、こちらを覗き込んでくる阿佐美を見上げる。  短くなった前髪の下、普段は隠れていた阿佐美の二つの目が阿賀松を睨んでいた。 「……いいから。あっちゃんは出ていって」 「随分とひでぇ扱いだな、詩織ちゃん」 「芳川会長が来る」 「ゆうき君と灘和真を探している」と続ける阿佐美の一言に、阿賀松の表情から笑みが消えた。やつが纏っていた空気が一変する。 「だから、早くどっかに言って」と阿佐美は追い打ちをかけるように口にした。 「こんなところ見られたら、もうどうしようもないよ。俺も、庇いきれない」 「ったく、つまんねえこと言ってんじゃねえよ。……萎えただろうが」  それでも尚従おうとしない阿賀松に痺れを切らしたかのように、阿佐美は「伊織」と、そう咎めるような視線を阿賀松に向ける。  赤い髪に鋭い目元。下手したら阿賀松と間違えてしまいそうだが、俺の手を握り締めてくるその大きな手も、声も、阿佐美のものだ。 「心配性だな、テメェも」  舌打ち混じり、溜め息を吐く阿賀松に「お陰様でね」と阿佐美は小さく呟いた。  意外なことに、先に折れたのは阿賀松だった。  面倒臭そうに髪を掻き上げた阿賀松。やつはベッドから動けないでいる俺に「また後でな」と囁きかけてくる。  なにが後でなのか、と固まる俺を無視して阿賀松はそのまま部屋の奥――阿佐美が壊した扉とはまた別の扉から寝室を後にした。  その向こうがどこに繋がっているのか、俺にはわからない。  阿賀松がいなくなってようやく、俺の手を握っていた阿佐美の手から緊張が抜けた。 「……詩織」 「ゆうき君、動かないで。そのまま横になってて……お願いだから」 「でも、会長が来るって……」 「あれは嘘だよ。探してるのは本当だけど……。それよりも、とにかく今は喋らないで。ゆっくりしてて」 「お願い、ゆうき君」と今にも泣きそうな顔をする阿佐美。  阿賀松を騙して嵌めようとしたのに。阿佐美にだってたくさん迷惑掛けたのに。  こうしてまだ心配してくれるのだ、阿佐美は。 「っ、俺は、大丈夫だから……志摩を助けて」 「志摩? ……あっちゃんの仕業か」 「お願い、詩織」 「……分かった、けど、それよりも先にゆうき君が先だよ」  そう、阿佐美はどこからか取り出したニッパーで俺の拘束を解いてくれた。ようやく腕が自由になり、止まっていた血が流れ出したように指先が痺れ出す。  恐る恐る体を起こそうとしたが、まだ神経はいかれたままのようだ。よろめく俺の体を支え、「無理しないで」と阿佐美は呟く。 「ん、……大丈夫、だから」  見た目よりかは、と言いかけた声は掠れてしまった。それより志摩を、と唇を動かせば、阿佐美は渋々ながら俺から離れて志摩が拘束された柱へと近付いた。それから間もなくして、阿佐美によって志摩の拘束も解かれる。 「志摩」  どれくらいの時間、柱に括りつけられていたのか俺は知らない。  それでも、長時間体を固定されることがどれほどの苦痛か知っている俺からしてみれば、志摩の疲労が計り知れないものだ。  ようやく解放された志摩は床の上、座り込んだまま何も答えない。 「……志摩」  痛みのあまり五感が麻痺していた中、ずっと聞こえていた志摩の声が今になって蘇る。  あの志摩が、必死になって阿賀松を止めようとしてくれていたのだ。  必死に縄を解こうとしたのだろう。投げ出された手首が擦り切れてしまい、血を滲んでいるのを見て胸が苦しくなる。 「……っ、志摩……」  起き上がろうとするが、下腹部に力を入れる度に下半身に強い電流を流されているようだった。  それでも尚下半身を引き摺り、ベッドから降りようとする俺に「ゆうき君」と慌てて阿佐美が駆け寄ってくる。 「ゆうき君、無理して動いちゃダメだって」 「ん、も……大丈夫だから」 「ゆうき君……っ」  呆れられても仕方ない。これで傷が広がろうとも、自業自得だと云われようとも受け入れる気持ちはあった。  その上で志摩を放っておくことが出来なかったのだ。体が悲鳴をあげようとも、思うように動けなかろうと、今すぐ駆け寄りたかった。  無理矢理腕に力を入れ、阿佐美に助けられながらもベッドから降りる。そのまま、床の上を這うようにして志摩の元へと近付いた。  動く度に下半身の筋肉が強烈に痛む。鋭い痛みと、腹の内側から焼き尽くすような持続的な鈍痛にまだ血が出てるのではないかと錯覚するほどだった。 「……っ、志摩……」  なんとか、志摩の前までやってきた。  目の前、力なく項垂れる志摩が何を考えてるのかわからない。  そっとしてやるのが一番だとわかっていても、そうすることが出来なかった。恐らくこれは俺のエゴだろう。  そっと志摩の手に触れる。縛られていたからか、白く冷たいその手は微かに震えていた。 「……もう、大丈夫だから」  言いたいことはたくさんあったはずなのに、志摩の手を握ったらその言葉しか出なかった。  ありがとうも、ごめんも、志摩にはなんの意味もなさない。だから、その代わりに強くその手を握り締めたときだった。顔を上げた志摩と目があった。赤く充血したその目が俺を捉えたときだ。 「――」  瞬間、伸びてきた腕に抱き締められる。 「……っ、ごめん……」  そして耳元、微かに聞こえたその掠れた声は震えていた。  志摩のこんな弱々しい声、今までに聞いたことなんてなかった。  背中に回されたまま、しがみつくように食い込む指先すらも今では安堵の対象だった。  俺は、そっと志摩の頭に手を回す。  志摩の体が震えている。そう思っていたが、どうやら震えているのは俺の手の方だったようだ。 「ごめん……齋藤……っ」  一度ならず二度までも、志摩の謝罪を聞けるなんてもしかしたら明日は土砂降りかもしれないな。  なんて、「謝らないで、志摩」と志摩を抱き締めようと思ったのに、腕に力が入らなくなっていく。それどころか、指先から力はどんどんと抜け落ちていくのだ。  霞み、大きく揺れる視界。遠退いていく意識の中、俺は全身で志摩の体温を感じていた。  ――夢じゃない。志摩を守れたんだ。  その事実を再確認したと同時に、緊張していた意識の糸はぷつりと呆気なく途絶えた。

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