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それから、志摩を先頭に公園を出てからどれほど歩いただろうか。
「ちょっと、志摩、本当にここ……」
「大丈夫だって、ほら」
「で、でも」
ついてこいと志摩に言われるがまま着いて来たものの、どんどん路地の奥へと入り込んでいく志摩に不安になっていく。
「おい、後ろ詰まってんだけど」
「わっ、ご、ごめん……」
もたもたしてるともたもたしたで後ろにいる栫井から飛んでくる野次に、俺は前へ進むしかなくなるわけだ。
人目を避けるように大通りから外れた裏路地を歩くこと暫く。既に深夜も深夜だ、それでもその路地にはちらほらと人間がいた。
俺達になんて興味もないよう各々夜を過ごしてる人たちを脇目に、俺は志摩とはぐれないよう頑張って着いていく。
やがて、志摩はとある建物の前で止まった。
看板は出ていない。けれど、そこが飲食店だというのは周辺に漂う香ばしい薫りでわかった。
「もしかして、ここが……?」
「そうだよ。俺のツテ」
どういうツテなのか気になったが、俺が尋ねるよりも先に志摩はその店の扉を開いた。それに慌てて続いて扉を潜った俺は、目の前に広がる景色、いや、そこにいた人物に目を見張った。
居酒屋とはまた少し雰囲気が違う、和風のダイニングバーというのだろうか。落ち着いた内装の雰囲気と、外装から掛け離れた大人な店内に思わず立ち止まりそうになったところを後ろにいた栫井に押される。
店内にも驚いたが、俺が目を奪われたのは店内の奥、カウンターにいた巨大な人影だ。その人影は、ぞろぞろと入ってきた俺達を見るなりパッと人良さそうな笑顔を浮かべる。そして。
「あらぁ、亮太ちゃん遅かったじゃないの~! ずっと待ってたんだから~!」
カウンター席の前、そこを陣取る推定2メートルはあるであろうおじさ、いや、おば……いやいやいや、どっちだ。わからない。けど声は男だし、でも、見た目は女の人の格好してるし……。
俺が固まってる理由に気付いたらしい、栫井も一瞬びくりと立ち止まる。
ただ一人、志摩だけは平然としていた。
「ああ、ごめん。こいつら遅くてさ」
「あら、そっちの黒髪の子が言ってた子? 災難大変だったわねぇ」
「いやそいつはオマケ。こいつが言ってた俺の友達」
そういきなり志摩に肩を抱かれ、驚く。
友達、そんな単語に一抹のこそばゆさを覚えたが、それも店主の「あーらあらあら!」というダミ声で吹き飛んでしまった。
「まあ、そうだったの〜! でも二人とも可愛いじゃな~い、あの面食いの亮太ちゃんがお気に入りなんて言うから気になってたけど、分かるわぁ」
そう、店主に見詰められた栫井の顔色は心なしか青い。そしてさりげ無く俺でガードしないでほしい。「だからそっちは関係ないって」とやや青筋浮かべる志摩だが、店主は慣れた様子だった。
――本当に、どういう関係なんだ。
「入ってすぐの部屋空けてるからゆっくりしていって頂戴。退院祝もちゃあんと準備してるから大人しく待ってるのよ〜」
「ありがとう、姉さん」
「いいのよ、今日はもう営業終了したから」
姉さん?!
言ったそばからとんでもないことを言い出す志摩に固まってる俺の背中を押し、「じゃあ、部屋借りるね」と志摩は奥の階段に向かって歩き出す。
「おい、お前どういうつもりだよ……っ」
「いいから黙って行きなよ」
「な……」
最早顔色が土色になってる栫井に構わず、志摩は階段の手すりを掴む。そして、「あ」と思い出したように志摩は立ち止まり、店主基姉さんを振り返るのだ。
「今回の部屋代、方人さんにツケといてね」
そう告げる志摩の笑顔にはここ最近で一番の笑顔が浮かんでいた。
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