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38【side:志摩】
齋藤からのあの電話だけでも正直、頭が可笑しくなりそうだった。
どうしてちゃんと俺の言う通りにしてくれないのか。どうして先に俺に話しておいてくれなかったのか。自分一人で決めて行動したくなるほど俺は頼りなかったのか。
言いたいことは沢山あったのに何度電話を掛け直しても齋藤は出ないし、それどころか返って来たのはメッセージ一件のみ。
『四階のラウンジのパンフレットを見て』
そうたった一言。
何回かに分けて送った俺のメッセージ丸ごと無視したそのメッセージを見た瞬間眩暈を覚えた。頭に昇る血をどうにか落ち着かせながらも俺は手の中の端末を握りしめる。
そんなことを言われたら行くしかない。
言いなりになるのは癪だし、言いたいことも文句もまだある。それでも、齋藤が何を企んでいるのか、俺はそれを知る必要があった。
すぐに俺は四階へと向かった。
エレベーターから一番近いラウンジには自販機が並んでいる。その横、雑誌ラックには学生寮の各施設についてや規則などを纏めたパンフレットが用意されてある。
今更誰も目を通していないのでそれは綺麗なまま残っていたが、一冊だけ向きが違うパンフレットを見つけた。
あまりにも分かりやすすぎるのではないか、もし他人が見つけたりでもしたらどうするつもりなのだ。
呆れながらもそれを手に取り、捲る。そして、ページの隙間からなにかがひらりと落ちた。
足元に目を向ければ、二枚の写真と一枚の書類がそこにはあった。
それは、齋藤が言っていた芳川知憲のデータで間違いないだろう。
これがここにあるということは――そこまで考えて頭が痛くなる。
すぐさま齋藤に通話を掛け直せば、足元からなにかが聞こえてきた。嘘だろ、と口から洩れていた。
ラックの裏、隠すように隙間に落ちていたのは間違いない。齋藤に渡していたスマホだった。それは初期化されたまっさらの状態だった。
送信したメッセージも俺とのやり取りも全部消したその端末を手にした瞬間、頭のどっかの血管がぶっち切れた気がした。
「……あんの馬鹿が……ッ!」
そのままスマホを壁に叩き付けそうになるのを寸でのところで堪える。
齋藤が何を考えているのか嫌なほど理解出来てしまう自分に余計嫌気が差したが、それでもなんとか怒りを抑えることが出来たのはまずは齋藤を見付けることが最優先事項だと理解出来たからか。
書類と写真を適当なパンフレットに挟み、そのまま丸めて掴む。そのままの足でラウンジを飛び出したその矢先だった。
「おい、廊下を走るんじゃねえよ」
偉そうな声が聞こえてきた方へと振り返れば、そこには風紀委員長の八木がいた。
こいつが阿賀松に媚びへつらってるのか。この様子からしてみればまだ齋藤がいなくなったことを知らないのだろう。呑気なやつだな。
八木を無視し、足早にその場を立ち去る。
そう言えば齋藤が何かを言っていた。確か、栫井がどうたら。
そんなことを気にしてる場合ではないと分かっていたが、ここ最近気付いたが齋藤は変なところで頑固なところがあるのだ。栫井を無視していたらまた何か言われるに違いない。
そんなこと知るか、俺の言うことを無視した齋藤が悪いんだ。そもそもあんなやつにリソース割く暇、俺達にはないはずだ。
そう頭の中で愚痴るものの、どうしても脳の片隅に齋藤の怒った顔が浮かぶ。そして、とうとう足が止まった。
「……っ、ああ、もう……っ」
本当、俺はいつからいい子になってしまったのだろうか。
そんな自分にすらムカつくけど、考えるよりも先に風紀室へと向かっている自分の足に笑いすら出てこない。
文句は全て本人に言ってやる。ああそうだ、全部。
そう思いながら俺は来た道を逆走し、学園へと向かう羽目になった。
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